虫垂炎(盲腸)

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当院では非炎症期(炎症が収まったあと)に腹腔鏡下虫垂切除を行うことを推奨しております。
現在腹痛がある方は一度お電話か公式LINEにてご相談ください。

虫垂炎は世間一般では「盲腸」と呼ばれる事もありますが、実は「盲腸」と「虫垂」は異なる臓器です。腸管は小腸と大腸からなり、大腸はさらに解剖学的に盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸、に分けられています。盲腸は大腸の起始部にあたり、小腸から便が流れ込む最初の場所となります。虫垂とは、盲腸から細長く飛び出した袋状の臓器で消化吸収に直接関与はしませんが、腸内細菌叢を調整している可能性が示唆されています。

19世紀初頭の外科医は進行した状態の虫垂炎の開腹所見で、盲腸周囲に膿が大量に貯留し、盲腸自体に激しい炎症があるのを観察し盲腸炎と呼んでいました。その当時の虫垂炎の致死割合は60%と言われ、一度罹患すると多くが助からない疾患でした。19世紀末のアメリカの外科医Charles Heber McBurney(虫垂炎の圧痛点で有名なMcBurney)らが確立させた虫垂切除術が世界中に広まる事で、20世紀初頭には致死割合が5-12%となりました。

一生涯での虫垂炎の罹患率は7~14%とされており、若年者に多いとされますが、近年は高齢者症例も多く見かけます。虫垂炎の標準治療はかつては緊急手術による切除術でしたが、現在は抗生剤の進歩により「薬で散らす」の選択も可能となってきました。

しかし、一度薬物療法で治癒した虫垂炎も再発する事があり、1年間に30%の方が再び虫垂炎になるといわれています。薬物療法で治療したのち、炎症のない時期に待機的に虫垂切除術を行う事が可能です。

原因

虫垂は盲端(行き止まり)になっている管状の臓器です。虫垂と盲腸のつなぎ目の部分が便の塊(糞石)やリンパ組織、腫瘍などでふさがれ閉鎖されると、虫垂内部で異常に細菌が増殖して虫垂炎を起こすと言われています。

疫学

生涯での罹患率は約7%と言われております。10~30歳の方に多く発症し、60歳以下の急性腹症の25%は急性虫垂炎だと言われています。

また虫垂炎の約1~4%になんらかな悪性新生物が関与していたとする報告もあります。

3.1. 虫垂炎の症状

3.1.1 典型症状

虫垂炎の典型的な症状はまず心窩部(みぞおち)もしくは臍周囲の痛みとして始まり、その際悪心、嘔吐などの消化器症状を伴うことがあります。その後腹痛は右下腹部に移動し体動などで悪化するようになるというものになります。最初の心窩部痛等の症状は内臓痛によるもので、続いて右下腹部に移動するのは体性痛によるものと言われています。お腹を下したときに心窩部がなんとなく痛くなるというのが内臓痛、怪我をしたときにけがをした部位が痛むというのが体性痛になります。

診察時にもMcBurneyの圧痛点という特徴的な所見があります。臍と上前腸骨棘を結ぶ線の外側3分の1の点に圧痛(押して痛い)、および反跳痛(離した時に痛い)を生じるというものです。このほかにも左下腹部を圧迫すると右下腹部が痛くなる(Rovsing兆候)
しかし、虫垂炎は解剖的な特性や進行度により多様な症状を呈し、典型的な症状が出現する方は半分もいないと言われています。ご高齢の方などでは痛みが良くわからない場合もあります。

3.1.2. 非典型症状

虫垂は盲腸の後内側表面から突起状に垂れ下がっており、個人差はありますが長さは約6-8cmになります。虫垂は腹腔内に固定されておらず可動性が高く、結腸の裏側に潜り込む事もしばしばあります。そのため、典型的な腹部症状(右下腹部の圧痛や反跳痛)が現れない事があります。非典型的な症状として、尿管に炎症が波及する事によって血尿が生じたり、腸腰筋に炎症が波及して背部痛となる事があります。

虫垂炎が典型的な心窩部の内臓痛→右下腹部の体性痛の経過を辿らず、発症すぐに穿孔してしまう事もあります。穿孔すると腸管内容物(糞便)が腹腔内で広がり、盲腸や直腸周囲の膿瘍を形成する場合と汎発性腹膜炎になる場合があります。直腸周囲膿瘍を形成した場合は頻回の便意(しぶり腹)を来す事があり、小腸全体に炎症が及ぶと下痢や麻痺性腸閉塞になる事があります。

以上のように、虫垂の解剖的な特性と炎症の程度により、虫垂炎は実に多彩な症状を呈する事があります。

3.2. 虫垂炎の進行度

虫垂炎は炎症の進み具合により、カタル性→蜂窩織炎性→壊疽性→穿孔性の四段階に分類されます。その進行度により治療戦略や治療方法が変わってきます。

  • カタル性:炎症の程度が一番軽い状態で、虫垂の中に膿が溜まっている状態です。
  • 蜂窩織炎性:炎症が虫垂壁の全層に広がっている状態です。
  • 壊疽性:虫垂の壁が壊死に至った状態です。
  • 穿孔性:虫垂の壁に穴が開き、膿や腸管内容が腹腔内に流出した状態です。

身体所見や腹部症状の経過から虫垂炎を疑った場合は血液検査と、画像の検査を行います。血液検査では白血球数やCRP(C-reactive protein)などの値から炎症の強さを判定します。また虫垂炎は緊急手術が必要になることもあるため、血液検査には術前検査として必要な項目も調べておきます。画像検査は以下の2つです。

超音波検査

超音波に対する臓器毎の特性(反射のしやすさの違い)を画像として描出する検査です。腹部診察の延長で行うことができ、簡便な検査です。圧痛などの理学所見も同時に取得でき動画として再生される点は後述のCT検査にはないメリットと言えます。一方で全く同じ画像を再現できない(再現性がない)、腸管ガス等により虫垂が描出困難な場合がある等のデメリットもあります。

CT(Computer tomography)検査

X線(レントゲン検査)を連続して撮像した画像をコンピューターで処理して体の輪切りの映像を作りだす検査です。虫垂炎に限らず多くの疾患を発見することができます。また造影剤を血液に入れることで臓器毎の血流の差を利用してさらに鮮明な画像を作り出す造影CTという検査もあります。再現性が高く、虫垂炎であればほとんどの場合確定診断がつきます。

これらの検査を組み合わせて診断をつけます。場合によっては緊急で手術が必要になることもあります。

虫垂炎に対する虫垂切除術が報告されてから年が経ち、年に保存加療が報告されてから年が経ちます。虫垂炎の診断と治療はすでに確立され、現代において虫垂炎はさほど怖い病気とは言えないかもしれません。

しかし、腹腔内の炎症性疾患である虫垂炎の治療戦略は、炎症の強さ / 診断時期 / 過去の治療経過などにより複数の選択ができ、また中途で他の治療方法へ変更する事があります。

ここでは、虫垂炎診断時にどんな治療戦略があるのか、その後どのような経過をたどるのか、について説明いたします。

#1  虫垂炎の治療選択:緊急手術か薬物治療か

虫垂炎の治療方法は元来は緊急手術による虫垂切除が第一選択でしたが、抗生剤の進歩により手術をせずに抗生剤を用いる治療、いわゆる"薬で散らす" 薬物療法が増えました。ランダム化試験により安全性と有効性が手術療法に劣らない事も示されております。

薬物治療の適応は、非穿孔性の虫垂炎で、炎症が原局している場合です。虫垂炎の診断時、約80%の方は非穿孔性虫垂炎であるとの報告があります。薬物治療は回復が早く、緊急手術と比較すると時間的コストと金銭的コストの両面でメリットがあります。デメリットは、薬物治療が奏功せずに炎症が進行して治療経過中に緊急手術を選択した場合、結果的に治療時間が長くなる事や、虫垂癌の見落としなどがあげられます。

しかし、非穿孔性の虫垂炎の中でも、下記の2つの場合は薬物療法の奏効しない可能性が高く、緊急手術を選択した方が良いと思われます。

  1. 糞石を伴う虫垂炎:糞石がない症例と比較し、糞石を伴う症例の膿瘍形成などの合併症リスクは高い(約5倍)と報告されています。
  2. 45才以上かつ、発症から48時間以上経過した方:薬物治療への反応が遅く、穿孔性虫垂炎に進行する可能性が高いからです。

#2 薬物療法の選択:外来か入院か

外来と入院の抗生剤治療の違いは2点あります。

  1. 絶食:絶食して消化システムを休ませる事は腸管や腹腔内の炎症に対して大きな治療効果があります。しかし飲水していても絶食すると血管内脱水になるリスクがあります。入院すれば電解質 / 糖分 / ビタミンが入った点滴を持続投与する事が可能なので、炎症が収まるまで安全に絶食で管理する事が可能です。
  2. 抗生剤の種類:外来では投与できる抗生物質の種類が限られますが、入院では選択肢が増えます。

#3 薬物療法の奏効割合

非手術治療により炎症が収まり、治療開始から30日は虫垂炎の再発がなかった症例を奏功と定義した場合、薬物療法の奏効率は約80%と報告されています。つまり、非手術治療を選択しても、約20%の症例で炎症が進行してしまい、1ヶ月以内に手術が必要な状況になってしまいます。

手術となった場合、術後は3日~2週間の入院が必要になります。そのため、最初から緊急手術を選択した場合に比べて、結果的には治療に要する時間や費用が多くなります。

#4 薬物療法により炎症改善した後の経過

薬物療法により虫垂炎が一度改善しても、多くの方が虫垂炎を再発すると言わています。そして、初回よりも2回目、2回目よりも3回目の虫垂炎の方が、より重症の虫垂炎(穿孔や腹腔内膿瘍)になりやすいと言われています。

どれくらいの方が虫垂炎を再発するのでしょうか。糞石を伴わない患者さんのみを対象とした研究では、1年以内に虫垂炎を再発し、結果的に30%の方に手術が行われたと報告されています。また別の研究では、虫垂炎再発の累積発生率は2年で34.0%、3年で35.2%、4年で37.1%、5年で39.1%であったと報告されています。

虫垂炎の薬物療法は近年普及していますが、その歴史はまだ浅く、実際はもっと多くの方が生涯にかけて虫垂炎が再発していると思われます。

また虫垂炎の中に悪性腫瘍が関連していることもあります。虫垂穿孔(穴が開いている状態)の患者さんの10人に1人(約10%)に癌が見つかると言われており、非穿孔性虫垂炎(穴が空いていない状態)患者さんの悪性腫瘍の有病率は1%と言われています。

1%といえど低い数字ではありません。かつては全ての虫垂炎に対して手術治療が行われていましたが、薬物療法が普及した事で見逃されている悪性腫瘍もきっとあると考えられます。

薬物療法で症状が改善した後は必ず手術する事をお勧めいたします。

#5 炎症期の緊急手術、非炎症期の待機手術

炎症がまさにある時期に、腹腔内は虫垂を中心に小腸や大腸が癒着し、その周囲は非常に硬く剥がしにくくなっています。このような時期に手術を行う場合、不必要に多くの臓器を切除したり、他の臓器を損傷してしまうリスクが高いです。

また手術治療において、合併症のリスクはゼロにはなりません。虫垂炎術後の合併症としては、創部感染、腹腔内膿瘍、腸閉塞などがあげられますが、非炎症期と比較すると、炎症期の手術は術後合併症のリスクが大きく上がります。

 非炎症期に手術を行うのは以下のような利点があります。

  • 拡大・不要手術が避けられる
  • 手術合併症が減る
  • 悪性腫瘍を見逃さない

以上のことから当院では安全確実な日帰り手術をおこなうために、急性期虫垂切除の適応は限定しています。ですが、腹痛があり受診されるという方も多いため治療スケジュールも含めてトータルでご相談を受け付けております。

虫垂炎に対する手術には開腹手術と腹腔鏡手術があります。開腹手術は右下腹部の小切開創から、虫垂を直接切除する方法です。平易な症例であれば小さな傷でも対応できますが、癒着等により虫垂を体の外に出すのが困難な場合もあり、大きな創にせざるを得ないこともあります。腹腔鏡手術ではカメラにより腹腔内(おなかの中)を観察できるためどのような症例でもほぼ同じ創で対応可能です。小さな創から腹腔内を洗浄しやすいことも、腹腔鏡手術の特徴と言えます。さらに腹腔鏡手術の技術革新により、臍部一か所の創からでも手術が可能です。

治療成績については開腹手術に比べて、腹腔鏡手術は術後合併症が少なく、入院期間が短縮され、術後の疼痛も少ないとする報告があります。腹腔鏡手術の中でも3か所の創から行うもの(多孔式)と1か所の創から行うもの(単孔式)を比較したランダム化比較試験では、単孔式手術では術後疼痛が軽い傾向があり術後合併症については同程度という結果が示されています。

以上のことから当院では単孔式腹腔鏡下虫垂切除術を基本としております。

診療全体の流れについて簡単にご説明します。

予約

Web予約・電話予約・
LINE相談

前日までの予約はWebが便利です。当日は17時まで電話予約受付ます。LINE無料相談はいつでもお気軽にどうぞ。

初診

診察・検査・手術日決定

初診では疾患の診断をし、日帰り手術を受けれるか検査を行います。
患者様のご都合に合わせた日程で手術を組みます。

手術前日は診療計画表で最終食事時間、内服薬、手術日の持ち物を確認しましょう。

手術当日

最終飲料時間・手術・
術後回復・安着確認

手術当日は飲水も指示しました時間までとし、手術に備えます。
全身麻酔の手術なので、目が覚めたら手術が終わっている状態です。術後はご自分で帰宅できるまで休んでいただき、ご自宅に到着したら私たちからお電話で安着確認をさせていただきます。

術後確認

術後1/3/7に電話診察します

疼痛

術直後は創の痛みがありますが、これらは鎮痛薬や局所麻酔薬を用いてコントロールします。何もしなくても痛いという
状態は通常2日程度です。お腹に力を入れると痛いという状態は1週間程度でほとんど気にならなくなることが多いです。

出血

術後出血は通常術後2日以内に問題となります。多くは術直後から異常が出ます。腹壁の創に少し血がにじむ程度であれば自然止血されることが多いです。

感染

体表の創の感染と腹腔内の感染があります。そもそも起こさないことが一番ですので、術後は予防的に抗菌薬を内服いただいています。また創部の保護剤は術後3日以降早めのタイミングで剥離いただき、創部をシャワーで洗浄頂くようお願いしています。皮膚を清潔に保つことで創治癒にも良いと考えます。

腸閉塞

何らかの原因で腸内の流れが滞った状態です。腸管が動かないために流れが滞る場合と、腸管内が何らかの原因で詰まってしまう場合があります。お腹が張る、便が出ない、食べたものを吐いてしまうという場合には腸閉塞が疑われます。一度食事を止めて待つことで改善が得られることがありますが、腸管が詰まってしまっている場合は改善しないこともあり、また緊急で対処が必要なことも希ですがあります。

縫合不全

虫垂炎の手術では腸管の一部を切り飛ばして縫い閉じていますが、この縫い目がうまくくっつかないことを縫合不全とい います。虫垂のあった盲腸は便が流れている部分になりますので、縫い目がくっつかないと便がお腹の中に漏れてしまい ます。虫垂炎術後に起きることは希ですが、起きると緊急で対処が必要になる合併症です。

当院における虫垂炎診療の概算になります。
保険診療が適応されますので、非常に高額になったり、施設間で⼤きな差が出る事はありません。

表1
スワイプしてください
 70才以上の方70才未満の方
保険負担割合1割負担2割負担3割3割
診察のみ約1,000円約1,700円約2,500円約2,500円
術前検査約2,300円約4,600円約7,000円約7,000円
手術費用約18,000円約18,000円 ※1約118,000円 ※2約118,000円 ※2
  • ※1 自己負担は18,000円が上限となります。
  • ※2 高額療養費制度により負担が軽くなる事があります。

薬で散らした虫垂炎は手術するべきか

抗菌薬で治療しえた虫垂炎も25-30%程度の方が1年以内に再燃すると言われています。また虫垂炎のごく一部ですが、虫垂腫瘍が原因であることがあります。虫垂の内部は内視鏡でも見ることが出来ません。当院では摘出した虫垂を病理検査に出しています。

虫垂炎の手術費用はいくらか

虫垂炎の診療費用は「診療費用」をご覧ください。

開腹手術と腹腔鏡手術、どちらが優れるか

腹腔鏡手術は一般的に術後早期の回復に優れているといわれています。開腹手術は癒着、その他の理由により傷を大きくしなければならなくなる可能性があります。一方腹腔鏡手術では、待機的な虫垂切除術で傷を延長することはまずありません。

合併症は何が考えられるか

感染、出血、他臓器損傷などがあります。このうち感染以外の合併症については術中観察で予防できます。感染については、術前後の抗菌薬投与で予防します。この他希ですが重篤な合併症として縫合不全があります。虫垂の縫い目がうまくくっつかないことです。術後3-14日の間に起きることがあります。必ず腹痛、発熱などの症状がありますので、少しでも変わったことがあればご連絡いただきたいです。