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論文紹介:鼠径ヘルニア術後の尿閉について
皆様こんちには、大阪うめだ鼠経ヘルニアMIDSクリニックです。
本日ご紹介する論文のタイトルは「Global Incidence and Risk Factors Associated With Postoperative Urinary Retention Following Elective Inguinal Hernia Repair The Retention of Urine After Inguinal Hernia Elective Repair (RETAINER I) Study」
和訳すると「鼠径ヘルニア修復術後の尿閉に関連する世界での発生率と危険因子、鼠径ヘルニア修復術後の尿閉(RETAINER I)研究」となります。
JAMA surgeryに掲載された論文となります。(PMID:37405798)
【背景】
術後尿閉(POUR)は鼠径ヘルニア修復術(IHR)の合併症としてよく知られていますが、発生率にはばらつきがあります。またリスク因子に関する既存研究は結果の差異が大きい。
【目的】
鼠径ヘルニア術後の尿閉の発生率と転帰について記述し、その危険因子探索を行います。
【方法】
〇セッティング
国際多機関共同の前向き観察研究であり、32ヵ国209施設で2021年3月1日~10月31日において成人の鼠径ヘルニア症例が登録されました。
〇対象
局所麻酔、ブロック麻酔、全身麻酔のいずれかの手術手技による開腹または腹腔鏡手術。
〇主要アウトカム
術後尿閉発生率
〇副次的転帰
転帰、尿閉のリスク因子。
また男性患者では術前に国際前立腺症状スコアを測定しました。
〇解析
ロジスティック回帰モデル
【結果】
合計4151人の患者(男性3882人、女性269人;年齢中央値(IQR):56(43-68)歳)が研究対象となりました。
手術アプローチの内訳は、鼠径部切開法:82.2%(n = 3414)、腹腔鏡下手術:17.8%(n = 737)。
麻酔方法の内訳は、全身麻酔:40.9%(n=1696)、くも膜下麻酔:45.8%(n=1902)、局所麻酔が10.7%(n=446)でした。
術後尿閉は男性5.8%(n=224)、女性2.97%(n=8)、65歳以上の男性9.5%(1252例中119例)に認められました。
共変量調整後の尿閉の危険因子は、年齢の上昇、抗コリン薬の服用、尿閉の既往、便秘、時間外手術、ヘルニア内の膀胱への浸潤、術中の一時的尿道カテーテル留置、手術時間の延長などでした。
術後尿閉は、予定外の日帰り手術入院(n=74)の27.8%、30日再入院(n=72)の51.8%の主な理由でした。
【結論】
このコホート研究の結果は、男性患者の17人に1人、65歳以上の男性患者の11人に1人、女性患者の34人に1人が鼠径ヘルニアの術後に尿閉を発症する可能性があることを示唆しました。回避可能なリスク因子を認識することで、リスクの高い患者さんにおいてより良い治療戦略を選択できるでしょう。
[COMMENT]
術後尿閉ですが、筆者も若い頃に1例だけ経験しました。術後1日目に尿道カテーテルを抜去後に排尿がなく、夕方に患者さんが腹痛を訴え発覚しました。尿道カテーテル再留置で24時間後には改善しました。
くも膜下麻酔がリスク因子なんだろうなぁと漠然と思っていましたが、この研究の結果では術後尿閉に対するくも膜下麻酔と全身麻酔のオッズ比が0.70(95%CI:0.50-0.997)と、なんとくも膜下麻酔の方がリスクが(ギリギリ)低かったです。
手術時間が長くなると膀胱に尿が貯留するので、尿道カテーテルを留置しないためには短い手術時間が必須となります。
総合病院における手術では必ず尿道カテーテル留置を行いますが、日帰り手術を専門とするクリニック独特の工夫と言えるかもしれません。