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論文紹介:虫垂炎、保存加療後再発のリスク因子
皆様こんちには、大阪うめだ鼠径ヘルニアMIDSクリニックです。
虫垂炎に対して保存加療(非手術治療)で一度改善したが、再発する方がおります。
本日ご紹介する研究は、どんな方が再発しやすいか、に関する探索的研究です。
論文タイトルは「Factors associated with recurrent appendicitis after successful treatment with antibiotics」
和訳すると「抗生物質による治療成功後の虫垂炎再発に関連する因子」
PMID:37459231
(Google scholarでも検索できます。)
【背景】
虫垂炎に対する保存加療の普及につれ、個々の予後予測や(治療方針に関する)意思決定のために再発に関連する因子を同定する事は有意義である。
[COMMENT]
これは本当に同感です。患者さんに説明するときも、より的確なリスク因子をあげれたら同意を得られやすいと感じます。
【方法】
デザインは後ろ向きコホート研究。
対象は初診から30日経過するまで手術とならなかった症例で、30日~1年以内に虫垂炎が再発し手術を受けた群と受けなかった群に分けて比較した。
解析は限界化ロジスティック回帰モデル(Marginalized logistic regression models)で、指標は調整リスク差(adjusted risk differences)。
[COMMENT]
対象:初診から30日経過した方を保存加療成功と定義しています。
1年以内に再手術となる場合、その80%は初診から30日以内であり、再手術のイベント発生も30日でプラトーに達します。
なので30日をカットオフにするのは納得です。
解析:Marginalized logistic regression models、少し前から流行ってますね、Marginalized model。限界効果を指標にしたモデルです。
簡単にいうと、従来のオッズ比は説明変数の値によらず一定であり、全体通しての平均的な影響しか示せません。
それに対し、限界効果はX1にもX2にも依存して変化し、モデル(調整変数の種類)に依存しないという利点があります。
面白いモデルでぜひ自身の研究でも使ってみたい。ただ、使う際の前提もいろいろありそうだなぁとは思います。
【結果】
30日以内に虫垂切除術を受けなかった抗生物質治療患者601人(平均年齢38.0歳;女性217人(36.1%))のうち、144人が虫垂切除術を受け、56人が30日から1年の間に追跡不能となった。
30日から1年の間に虫垂切除術を受けた割合の推定率は28.6%(95%CI:25.0~32.8)であった。
調整した結果、
初診時の吐き気、嘔吐、食欲不振は、30日~1年間の虫垂切除率の上昇と関連していた(調整後リスク差 17.52、95%CI:8.64~26.40)。
糞石の存在(調整後リスク差 3.64、95%CI:-6.08~13.36)と初回画像診断における膿瘍、穿孔、脂肪織混濁(調整後リスク差 -7.23、95%CI:-17.41~2.95)は、30日~1年間の盲腸切除術と強い関連はなかった。
【結論】
虫垂炎の重症度に一般的に関連する因子のほとんどは、抗生物質による治療後、長期的に虫垂切除術を受けるリスクの上昇とは強く関連していなかった。
[COMMENT]
これはめちゃめちゃ驚きです。糞石の存在は既報や外科医の常識として虫垂炎再発のリスク因子と思われているんですよね。
今回のコホートで追跡不能は10%なので、信頼性は高いんじゃないかと思います。
日本でも同様の研究をしてみたいのですが、受診のハードルが低くマイナンバーが普及していないから労力は相当なものになりそうです(というか追跡不能が多すぎちゃう?)。
解析手法も目新しく、非常に興味をひかれました。とは言っても内科の分野ではとっくに知られている手法だったりして…
とりあえず、患者さんに説明する材料が増えたのは嬉しいです。