鼠径ヘルニア(脱腸)の原因は?男性に多い理由を専門医が解説
大人の鼠径ヘルニア(脱腸)は、女性より男性にずっと多い病気です。男性の足の付け根には、生まれる前に精巣が下りてきた通り道があって、そこがもともと壁の弱い場所になっています。
その弱い場所に、年齢による筋膜のゆるみや、咳、いきみ、重い物を持つ仕事の負担が重なって、腸や脂肪が押し出されてきます。原因がひとつに決まることは少なく、日本ヘルニア学会のガイドラインも、体質や年齢、仕事、持病と、幅広い危険因子を挙げています(CQ1-1)。
この記事で分かること
- 男性に多い理由(精巣が下りてきた通り道)
- 20代と50代以降で違う、脱腸の出方
- 力仕事や筋トレとの関係
- 前立腺の手術や、尿の出にくさとの関係
- 咳・便秘・体型・家族歴との関係
- 原因に心当たりがあるときの受診と手術
目次
1. 男性の足の付け根には、精巣が下りてきた通り道がある
精巣は、お母さんのお腹の中にいるあいだに、お腹の奥から陰嚢へと下りてきます。その通り道が鼠径管で、生まれたあとも、精管と、精巣に血液を送る血管が束になって、この中を通っています。
女性の鼠径管を通るのは子宮を支える子宮円索だけで、管そのものが細くできています。男性の管は太く長いぶん、お腹の壁の中ではほころびやすい場所になり、手術を受ける人の約85%が男性なのはこのためです。

お腹に力が入るたびに、ここが内側から押されます。押された壁が少しずつ広がり、そこから腸や脂肪が顔を出したものが、鼠径ヘルニアです。
2. 20代と、50代を過ぎてからでは、出方が違う
数でいえば、鼠径ヘルニアは50歳を過ぎてから増えていく病気です。それでも20代や30代で見つかる方はいて、若い方と中高年とでは、出てくる型も、その背景も違ってきます。

2-1. 20代・30代の脱腸
若い方でまず考えるのは、外鼠径ヘルニアという型です。鼠径管の入口から精索に沿うように袋が出てきて、男性では陰嚢のほうまで下りてくることもあります。
背景としてよく知られているのが、鞘状突起という腹膜の袋。精巣が下りるときに通った袋で、ふつうは生まれる前後に閉じるのですが、閉じきらないまま大人になる人がいます。こういう人は外鼠径ヘルニアを起こしやすいとされていて(CQ1-1)、生まれたときからあった袋に、あるとき腸が入り込んでくる、という成り立ちです。

専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、20代の方が「この年でなるとは思わなかった」と驚かれることがあります。脱腸は年配の人の病気、という印象が強いのでしょう。部活や筋トレで無理をしたせいだと、ご自分を責める方もいらっしゃいます。生活のどこかが悪かったせいとは限りませんので、まずは型と状態を確かめるところから始めましょう。
2-2. 50代を過ぎてからの脱腸
年齢とともに、お腹の壁をつくる筋膜はゆるんできます。中高年の男性に加わってくる内鼠径ヘルニアは、鼠径管の後ろの壁がゆるんで、そこから出てくる型。この壁のゆるみが主な原因です。膨らみは比較的広く出て、押すと戻りやすい傾向があります。若いころは何ともなかったのに、と言われる方が多いのはこのためです。

3. 重い物を持った日に出てきたのは、仕事のせいか
「荷物を持ち上げたとたんに、足の付け根がぷくっと膨らんだ」「ひどく咳き込んだあとで気づいた」。最初に気づいた場面を伺うと、こういうお話をよく聞きます。仕事のせいだと思うのも、無理はありません。

けれども、膨らみに気づいた日と、壁が弱くなり始めた時期は同じではありません。弱い場所はそれ以前から、日々の腹圧で少しずつ広がっていたもので、その日にかかった力で、中身が初めて表に出てきた、という順番です。

では仕事はまったく関係ないのかというと、そうでもありません。肉体労働の量は危険因子に挙がっています。仕事での機械的な作業については、外鼠径ヘルニアには関わるけれど内鼠径ヘルニアには関わらない、という見方があります。一方で、余暇の運動は関係が無かったという報告もあり、ジムでの筋トレを原因とする記載は見当たりません(CQ1-1)。
4. 前立腺の手術を受けた方、尿が出にくい方
男性ならではの背景が、前立腺です。前立腺を全部とる手術(前立腺全摘除術)を受けたこと、前立腺肥大症などで尿が出にくいことは、どちらも鼠径ヘルニアの危険因子に数えられています(CQ1-1)。
手術から何年もたってから、膨らみが出てくることもあります。尿を出すたびにいきむ習慣も、咳や便秘と同じく、お腹に力をかけ続けます。
逆向きのつながりもあります。内鼠径ヘルニアでは、すぐ内側にある膀胱が袋のほうへ引き込まれて、トイレが近い、尿が出しにくいといった変化が出ることがある。こうした尿の変化も鼠径ヘルニアの初期症状のひとつで、泌尿器科に通っているあいだに膨らみを指摘される方もいます。

脱腸で受診する科は、膨らみが主なら外科・消化器外科、陰嚢の腫れや尿の症状が中心なら泌尿器科が目安です。

専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、これまでの手術を伺ったときに、前立腺の手術のことを言い忘れる方がいらっしゃいます。お腹の手術ではない、と思われるのでしょう。脱腸の背景を考えるうえでは大事な手がかりになりますので、何年前のことでも教えてください。
5. 咳・便秘・体型・家族のこと
5-1. 咳や便秘で、お腹に力がかかり続ける
長引く咳や慢性閉塞性肺疾患(COPD)も、危険因子のひとつです(CQ1-1)。咳き込むたびに、お腹の中の圧が一気に上がるためです。便秘で毎日強くいきむことも、同じ方向の負担。腎臓の病気で腹膜透析を受けている方も、発症しやすい側に入ります。
お酒とたばこの習慣も挙がってはいますが、喫煙については関係が無かったという報告もあって、はっきりしていません。
5-2. 太っているほど、なりやすいのか
食べ過ぎや太りすぎのせいですか、と聞かれることがあります。答えは、少しややこしいです。体型との関係は、どの型を見るかで向きが逆になるからです(CQ1-1)。

少なくとも、太ったから脱腸になった、とは言えません。ただ、体重が増えると、膨らみがはまり込んで戻らなくなる嵌頓(かんとん)の心配は増えるとされていて、どちらの体型なら安心、という話でもないのです。

5-3. 父や兄弟に脱腸の人がいる
家族に鼠径ヘルニアの人がいることも危険因子で、組織の丈夫さに関わるコラーゲンの遺伝子との関連も調べられています(CQ1-1)。問診で家族のことを伺うと、「そういえば父も」と思い出される方は珍しくありません。
とはいえ、親がなったから自分も必ずなる、というものではありません。
参考:鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024(日本ヘルニア学会) CQ1-1
6. 原因が分かっても、脱腸は自然には治らない
原因を取り除いても、膨らみは消えません。脱腸が自然に治らない理由は、弱くなった壁が元には戻らないからで、根本から治すには手術が要ります(CQ5-1)。
もっとも、痛みがほとんど無く、暮らしに困っていない段階なら、説明を受けたうえで、手術をせずに経過を見る選び方もあります(CQ5-1)。
当院で行っている腹腔鏡による日帰り手術は、お腹の内側からメッシュを当てて補強する方法です。入院はせず、術後の経過に問題がなければ、その日のうちに帰宅できます。
仕事への戻り方は、仕事の中身で変わります。デスクワークなら手術の翌日から戻れますが、荷物の上げ下ろしが多い仕事ほど、手術後の仕事復帰は遅めに見ておく必要があります。

専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、重い物を運ぶ仕事の方から「仕事を辞めないといけないのか」と聞かれることがあります。辞めたからといって、膨らみが消えるわけではありません。それよりも、ふだんどんな動きをしているかを伺って、手術のあと現場へ戻る時期を一緒に決めていくほうが、現実的な話になります。
初診の流れのなかで、脱腸の背景を一緒に整理するため、次のようなことを伺います。

当院は、大阪駅前第2ビルの1階。手術を決める前の相談だけでも受け付けています。
診療時間 月・水〜土は21時まで、火曜と日・祝は17時まで診療しています(17時以降と火曜・日祝は要予約)。電話・Web予約・LINEでのご予約・ご相談は、24時間365日受け付けています。
よくある質問
太ったことが原因とは言えません。日本ヘルニア学会のガイドラインでは、鼠径ヘルニア全体で見ると、肥満の人はむしろ発症しにくいとされています(CQ1-1)。ただ、内鼠径ヘルニアという型では肥満が危険因子に挙がっていて、体重が増えると嵌頓が起こりやすくなるとも言われています。
仕事での肉体労働の量は、危険因子に挙がっています。一方で、余暇の運動は関係が無かったという調べもあり、筋トレを原因とする記載はガイドラインにありません(CQ1-1)。重い物を持った瞬間に膨らみに気づく方は多いのですが、気づいた場面と、弱い場所ができた時期とは別と考えてください。
ガイドラインを見ても、ヘルニアがあること自体で射精に影響が出る、という記載はありません。手術の評価項目には精管の損傷や精巣の痛み、性機能の障害が含まれていますが、術式のあいだで差があるという結論は出ていません。気になることがあれば、診察のときに遠慮なくおっしゃってください。
なります。数としては50歳を過ぎてから増える病気ですが、若い方では、精巣が下りてきたときの腹膜の袋(鞘状突起)が閉じきらずに残っていて、外鼠径ヘルニアという型で出てくることがあります。立つと膨らみ、横になると引っ込むなら、年齢にかかわらず一度診察を受けてください。
家族に鼠径ヘルニアの人がいることは、危険因子のひとつに挙げられています(CQ1-1)。コラーゲンをつくる遺伝子との関連も調べられていますが、親がなったから必ずなる、というものではありません。初診ではご家族のことも伺いますので、分かる範囲で教えてください。
まとめ
足の付け根に、精巣が下りてきた通り道がある。男性に脱腸が多い、いちばんの理由です。そこに年齢や腹圧、体質が重なって、膨らみが出てきます。
おさらい
- 若い方は生まれつきの袋、中高年は筋膜のゆるみが背景になりやすい
- 膨らみに気づいた日の力仕事は、きっかけであって原因のすべてではない
- 前立腺の手術歴や尿の出にくさも、男性に多い背景
- 原因が分かっても自然には治らない。治すのは手術
膨らみの見分け方から手術の選び方まで、脱腸の症状から治療までの流れを通して知っておくと、診察で聞きたいことを整理しやすくなります。