鼠径部(足の付け根・Vライン)のしこりで考えられる病気7つを専門医が解説
足の付け根に違和感やしこりを感じたら、まずは鼠径ヘルニア(脱腸)について詳しく知ることから始めましょう。
鼠径部(足の付け根・Vライン)にしこりや膨らみを感じたら、それは何かの病気のサインかもしれません。考えられる病気は鼠径ヘルニア(脱腸)だけではありません。この記事では、鼠径部のしこりで考えられる7つの病気について、専門医が詳しく解説します。
この記事で分かること
- 鼠径部(足の付け根・Vライン)のしこりで考えられる7つの病気
- しこりの特徴(硬さ・痛み・体位変化)で病気を見分ける方法
- 鼠径ヘルニア(脱腸)のセルフチェック方法
- 何科を受診すべきか(病気別の受診科一覧)
- 緊急受診が必要な症状と放置の危険性
目次
鼠径部のしこりで考えられる病気7選

足の付け根(太ももの内側の付け根部分)は、医学的に鼠径部(そけいぶ)と呼ばれる場所です。Vラインやビキニラインとも呼ばれます。
ここにしこりや膨らみを感じた場合、以下の7つの病気が考えられます。
1. 鼠径ヘルニア(脱腸)【最も多い原因】

鼠径部のしこりで最も可能性が高い病気です。本来おなかの中にあるべき臓器(腸や内臓脂肪)が、筋膜の弱い部分から皮膚の下に飛び出した状態で、「脱腸」とも呼ばれます。
鼠径ヘルニアの特徴:
- 硬さ:やわらかい(押すと引っ込む)
- 痛み:軽度〜中度(違和感程度のことも多い)
- 体位での変化:立つと出現、横になると消失
- 好発:男性に多い(男女比8:1)、40代以降に増加
- 緊急性:★★★(嵌頓リスクあり)
受診科:外科・消化器外科
2. リンパ節腫脹【感染症や悪性腫瘍の可能性】
足の付け根(鼠径部)はリンパ節が多く集まる場所です。下肢や外陰部からのリンパ液が集まるため、感染や炎症があると腫れやすくなります。
リンパ節腫脹の特徴:
- 硬さ:硬い、コリコリした感触
- 痛み:押すと痛い(感染性)、無痛(悪性の可能性)
- 体位での変化:変化なし
- 大きさ:通常1cm未満は正常、1cm以上で要注意
- 緊急性:★★☆(無痛性の場合は早めに受診)
見分けるポイント:
- 痛みを伴う場合:足の傷、水虫、性感染症などによる感染性リンパ節炎の可能性が高い
- 無痛性の場合:悪性リンパ腫や転移性リンパ節腫脹など、がんの可能性も考慮が必要
受診科:内科・血液内科(感染が原因の場合は原因疾患の治療科)
3. 粉瘤(ふんりゅう)【皮膚のできもの】
粉瘤(アテローム)は皮膚の下にできる良性の腫瘍です。皮膚の下に袋状の構造ができ、その中に角質や皮脂などの老廃物が溜まります。
粉瘤の特徴:
- 硬さ:やや硬い、弾力がある
- 痛み:通常は痛くない(炎症時は赤く腫れて痛む)
- 体位での変化:変化なし
- 特徴的な所見:中央に黒い点(開口部)が見えることがある
- 緊急性:★☆☆(炎症時は早めに受診)
注意点:粉瘤は自然治癒しません。放置すると徐々に大きくなり、細菌感染を起こすと「炎症性粉瘤」となり、赤く腫れて強い痛みを伴います。炎症を繰り返す場合は手術による摘出が必要です。
受診科:皮膚科・形成外科
4. 脂肪腫【やわらかい良性腫瘍】
脂肪腫は成熟した脂肪細胞からなる良性腫瘍です。体のどこにでもできますが、鼠径部にできることもあります。
脂肪腫の特徴:
- 硬さ:やわらかい、ゴムのような弾力
- 痛み:通常は痛くない
- 体位での変化:変化なし
- 成長速度:ゆっくりと大きくなる(数年単位)
- 緊急性:★☆☆(急激に大きくなる場合は要注意)
経過観察の基準:脂肪腫は良性のため、小さく症状がなければ経過観察も可能です。ただし、5cm以上に大きくなった場合や急速に増大する場合は、悪性腫瘍(脂肪肉腫)との鑑別のため検査が必要です。
受診科:形成外科・外科
5. 動脈瘤・静脈瘤【血管のコブ】
鼠径部には大腿動脈・大腿静脈という太い血管が通っています。これらの血管がコブ状に膨らむと、しこりとして感じることがあります。
動脈瘤の特徴:
- 硬さ:拍動を感じる(心臓の鼓動に合わせてドクドクする)
- 痛み:通常は痛くない
- 体位での変化:変化なし
- 緊急性:★★★(破裂リスクがあるため要精査)
静脈瘤の特徴:
- 硬さ:弾力がある、青紫色に見えることがある
- 痛み:だるさや重さを感じることがある
- 体位での変化:立位で目立ち、横になると軽減
- 緊急性:★★☆
受診科:血管外科・心臓血管外科
6. 皮下膿瘍【感染による腫れ】
皮下膿瘍は皮膚の下に膿が溜まった状態です。毛嚢炎(毛穴の感染)や化膿性汗腺炎などが原因で起こります。
皮下膿瘍の特徴:
- 硬さ:初期は硬い、進行すると波動感(中に液体がある感じ)
- 痛み:強い痛み、ズキズキする
- 体位での変化:変化なし
- 皮膚の状態:赤み、熱感、腫れを伴う
- 緊急性:★★☆(発熱を伴う場合は早急に受診)
注意点:皮下膿瘍は抗菌薬だけでは治らないことが多く、切開して膿を排出する処置が必要になることがあります。発熱を伴う場合は、感染が広がっている可能性があるため、早急に受診してください。
受診科:皮膚科・外科
7. Nuck管水腫(ヌックかんすいしゅ)【女性特有】
Nuck管水腫は女性だけに起こる病気で、20代〜40代の女性に好発します。鼠径ヘルニアと同じ場所にしこりができるため、鑑別が必要です。
Nuck管水腫の特徴:
- 硬さ:やわらかい、弾力がある
- 痛み:痛みを伴うことがある
- 体位での変化:あまり変化しない(ヘルニアと異なる点)
- 好発:20〜40代の女性
- 緊急性:★☆☆(比較的低い)
Nuck管とは:胎生期に子宮円索の形成に伴って鼠径管内に入り込んだ腹膜の一部が遺残したもので、この内部に液体が貯留した状態をNuck管水腫と言います。時に子宮内膜症と関連することがあります。
受診科:婦人科・外科

【比較表】しこりの特徴で病気を見分ける
鼠径部のしこりは、その特徴によってある程度病気を推測することができます。以下の比較表を参考にしてください。
| 病気 | 硬さ | 痛み | 体位での変化 | 受診科 | 緊急性 |
|---|---|---|---|---|---|
| 鼠径ヘルニア | やわらかい | 軽度〜中度 | 立つと出現、寝ると消失 | 外科 | ★★★ |
| リンパ節腫脹 | 硬い・コリコリ | 押すと痛い/無痛 | 変化なし | 内科 | ★★☆ |
| 粉瘤 | やや硬い | 炎症時に痛い | 変化なし | 皮膚科 | ★☆☆ |
| 脂肪腫 | やわらかい | 通常なし | 変化なし | 形成外科 | ★☆☆ |
| 動脈瘤 | 拍動あり | 通常なし | 変化なし | 血管外科 | ★★★ |
| 静脈瘤 | 弾力あり | だるさ | 立位で悪化 | 血管外科 | ★★☆ |
| 皮下膿瘍 | 硬い→波動感 | 強い痛み | 変化なし | 皮膚科 | ★★☆ |
| Nuck管水腫 | やわらかい | 時に痛い | あまり変化なし | 婦人科 | ★☆☆ |
※この表はあくまで目安です。正確な診断には医師による診察が必要です。
鼠径ヘルニアの見分け方とセルフチェック
鼠径部のしこりで最も可能性が高いのは鼠径ヘルニアです。以下のセルフチェックで、鼠径ヘルニアの可能性を確認してみましょう。
鼠径ヘルニア セルフチェックリスト
以下の症状に2つ以上当てはまる場合は、鼠径ヘルニアの可能性が高いです。
- □ 立ったり、力んだりすると足の付け根に膨らみが出る
- □ 横になると膨らみが消失または小さくなる
- □ 膨らみを手で押すと引っ込む
- □ 咳やくしゃみ、重いものを持つ時に膨らみが目立つ
- □ 膨らみの部分がやわらかい
- □ 歩行時や立ち上がる時に引っ張られる感覚がある
- □ 激しい痛みではなく重だるい感覚がある
鼠径ヘルニアの最大の特徴は「体位で膨らみが変化する」ことです。立つと出てきて、横になると消えるしこりは、鼠径ヘルニアの可能性が非常に高いです。
鼠径部のしこりは何科を受診?【病気別一覧】
鼠径部にしこりを感じたら、まずは外科または消化器外科を受診することをお勧めします。最も可能性の高い鼠径ヘルニアの診断・治療ができるためです。
病気別の受診科一覧
| 疑われる病気 | 第一選択の受診科 | その他の選択肢 |
|---|---|---|
| 鼠径ヘルニア | 外科・消化器外科 | 鼠径ヘルニア専門クリニック |
| リンパ節腫脹 | 内科 | 血液内科、感染症内科 |
| 粉瘤 | 皮膚科 | 形成外科 |
| 脂肪腫 | 形成外科 | 外科、皮膚科 |
| 動脈瘤・静脈瘤 | 血管外科 | 心臓血管外科 |
| 皮下膿瘍 | 皮膚科 | 外科 |
| Nuck管水腫 | 婦人科 | 外科 |
| わからない場合 | 外科 | かかりつけ医 |
迷ったら外科へ:鼠径部のしこりで最も多いのは鼠径ヘルニアです。また、外科では他の病気が疑われた場合に適切な診療科を紹介してもらえます。
【緊急】今すぐ受診が必要な症状

以下の症状がある場合は、できるだけ早く(できれば当日中に)医療機関を受診してください。
🚨 緊急受診が必要な症状チェックリスト
- 普段は押せば引っ込む膨らみが、押しても戻らない
- 膨らみの部分が徐々に硬くなってきた
- 激しい腹痛を伴う
- 嘔吐や腹部膨満感がある
- しこりの部分に赤み・熱感がある
- 38度以上の発熱を伴う
鼠径ヘルニアの嵌頓(かんとん)とは
嵌頓とは、脱出した腸が戻らなくなり、締め付けられた状態です。血流が遮断され、8時間程度で腸が壊死し始めます。放置すると腸管穿孔、腹膜炎、敗血症へと進行し、命に関わる危険があります。
嵌頓の進行:
- 腸管の締め付け → 脱出した腸が戻らなくなる
- 血流遮断 → 8時間で腸組織の壊死が始まる
- 腸管穿孔 → 腸壁に穴が生じる
- 腹膜炎 → 腸内容物が腹腔内に漏出
- 敗血症 → 急速に生命危険状態へ
嵌頓を予防する方法はなく、いつ起こるかも予測できません。そのため、鼠径ヘルニアの症状を認めたら、なるべく早めの手術をお勧めしております。
男女別の症状の違い
男性の場合
男性の鼠径ヘルニア発症率は「3人に1人」と非常に高く、年齢とともにリスクが増加します。特に40代以降で急増します。
男性に多い理由:
- 解剖学的に鼠径管が広い(精索が通るため)
- 重労働やスポーツによる腹圧上昇
- 加齢による筋肉の脆弱化
女性の場合
女性の鼠径ヘルニアは全体の約15%ですが、男性とは異なる特徴があります。
女性特有のポイント:
- Nuck管水腫との鑑別が必要(20〜40代に多い)
- 妊娠・出産後に症状が顕在化することがある
- 出産回数の多い高齢女性は大腿ヘルニアのリスクが高い
| 症状の特徴 | 鼠径ヘルニア | Nuck管水腫 |
|---|---|---|
| 好発年齢 | 幅広い年齢層 | 20-40代 |
| 膨らみの変化 | 体位で変化する | あまり変化しない |
| 痛みの有無 | 軽微な場合が多い | 痛みを伴うことがある |
| 緊急性 | 嵌頓リスクあり | 比較的低い |
よくある質問(FAQ)
鼠径部のしこりで最も多い原因は鼠径ヘルニア(脱腸)です。次いでリンパ節腫脹、粉瘤、脂肪腫などが考えられます。立った時に膨らみが出て、横になると消える場合は鼠径ヘルニアの可能性が非常に高いです。
まずは外科または消化器外科を受診することをお勧めします。鼠径部のしこりで最も多いのは鼠径ヘルニアであり、外科で適切な診断と治療を受けられます。他の病気が疑われた場合は、適切な診療科を紹介してもらえます。
押しても戻らない膨らみ、激しい痛み、嘔吐、膨らみの赤み・熱感がある場合は緊急受診が必要です。鼠径ヘルニアの嵌頓(かんとん)の可能性があり、放置すると腸が壊死する危険があります。これらの症状があれば、すぐに救急外来を受診してください。
痛みがなくても放置は危険です。鼠径ヘルニアは初期に痛みがないことが多いですが、放置すると嵌頓(かんとん)を起こす可能性があります。また、無痛性のリンパ節腫脹は悪性腫瘍の可能性もあります。症状が軽くても、早めに医療機関を受診してください。
鼠径ヘルニアは自然治癒しません。筋膜に開いた穴は自然には塞がらないため、根本的な治療には手術が必要です。放置すると徐々に悪化し、嵌頓のリスクも高まります。症状を感じたら、早めに専門医を受診してください。

患者さまが知っておくべきポイント
- 鼠径部のしこりで考えられる病気は7種類ある
- 最も多いのは鼠径ヘルニア(脱腸)
- 立位で膨らみ、仰臥位で消失するのは鼠径ヘルニアの典型的な症状
- 押しても戻らない場合は緊急受診が必要
- 迷ったら外科を受診
まとめ:鼠径部のしこりを感じたら早めに受診を
鼠径部(足の付け根・Vライン)のしこり・膨らみを感じた際は、放置せず、早めに医療機関を受診することが重要です。
この記事のまとめ:
- 鼠径部のしこりで考えられる病気は7種類(鼠径ヘルニア、リンパ節腫脹、粉瘤、脂肪腫、動脈瘤・静脈瘤、皮下膿瘍、Nuck管水腫)
- 最も多いのは鼠径ヘルニア(脱腸)
- しこりの硬さ・痛み・体位での変化で病気を推測できる
- 迷ったら外科・消化器外科を受診
- 押しても戻らない、激しい痛みがある場合は緊急受診
- 鼠径ヘルニアは自然治癒せず、手術でのみ根治可能
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