鼠径部のしこり・膨らみは何が原因?押すと痛い場合・痛くない場合の見分け方を専門医が解説
立つと大きくなり、あお向けに寝ると小さくなる鼠径部のしこり・膨らみなら、まずは鼠径ヘルニア(脱腸)を考えてください。そして、押すとズキッと痛む、赤い、熱をもっている、というものはまた別で、皮膚の下の炎症のケースが多いです。硬くて痛まず、寝ても形の変わらないしこりなら、皮膚や脂肪のできもの、それからリンパ節。
同じ場所のしこりでも、最初に疑う病気は多くのパターンがあります。
股の付け根、股関節の前、太ももの付け根、恥骨の横、パンツのライン。
呼び方は人によって違っても、お腹と脚の境目にある溝のまわりなら、どれもここでいう鼠径部(鼠蹊部とも書きます)です。鼠径部の範囲を描いた図と見比べながら、ご自分のしこりの場所を確かめてみてください。
この記事で分かること
- 寝ると小さくなるしこりと、鼠径ヘルニアの関係
- 押すと痛いしこり・赤いしこりの正体
- 痛くないのに消えないしこりとは
- 女性が鼠径部にできるしこり
- 何科へ行くか、当院の初診で調べること
目次
1. 立つと膨らみ、寝ると小さくなるなら鼠径ヘルニア
しこりの大きさが姿勢で変わるなら、鼠径ヘルニアをいちばん強く疑われます。理由は、中身が、出たり入ったりしているから。

皮膚のすぐ下まで、腸や脂肪がお腹の筋肉のすき間を通って出てきているので、立てばお腹の中の圧で押し出され、あお向けになれば奥へ戻ります。指で軽く押しても中へ引っ込みます。
痛みは重だるい程度か、まったく無いこともあります。それでも放っておいて消えるものではなく、根本から直す方法は手術、というのがガイドラインの立場です(CQ5-1)。男性で膨らみが陰嚢のほうまで続いているときも同じ病気が考えられますが、陰嚢だけが大きくて押してもお腹のほうへ戻らない場合は、陰嚢水腫という別の病気の可能性があります。
また、姿勢で大きさが変わるしこりには、静脈瘤もあります。皮膚から青紫に透けて見えることがあり、脈は打ちません。だるさや重さを感じやすいところも、鼠径ヘルニアとの違いです。
関連記事:鼠径ヘルニア(脱腸)の初期症状は?見た目とセルフチェック5項目を専門医が解説
1-1. 押しても戻らず、痛みが強くなってきたら

出口で腸が締めつけられる嵌頓(かんとん)が起きると、締めつけが続くうちに腸へ血が通わなくなります。押しても戻らない膨らみに、強い痛みと吐き気が重なったら、夜間や休日でも、待たずに受診を。
関連記事:鼠径ヘルニアを放置すると危険?嵌頓のリスクと治療法を専門医が解説
2. 押すと痛い・赤い・熱っぽいしこり
触ったり押したりしてズキッと痛むなら、炎症か感染から考えられます。そして、痛みの出方で、リンパ節の腫れと皮膚の下の膿を見分けます。
鼠径部のリンパ節は、脚や陰部から上がってくるリンパ液の通り道にあります。
足の切り傷、悪化した水虫、性感染症。その先のどこかに炎症があると、それに反応して腫れ、押すと痛みます。もとの炎症が引けば小さくなっていくこともあるので、足の付け根のしこりを様子見できる期間を知ったうえで、何週間か待つ選択肢もあります。
赤みと熱がはっきりして、脈打つようにズキズキ痛むなら、毛穴などから入った菌で皮膚のすぐ下に膿がたまっています。触った最初は硬い印象があり、膿が増えるにつれて、ぶよぶよしてきます。
38℃以上の熱があれば、待たずにその日のうちに受診をしてください。
膿がたまりきったものは皮膚を切開して出す処置が要ることもありますし、もとからあった粉瘤が急に赤く腫れたときも、同じような痛み方をします。痛むのに指で探ってもしこりが見つからない、というときは、膨らみのない鼠径部の痛みの側から原因が絞られます。

3. 痛くないのに消えないしこりは、様子を見てよいか
痛まないしこりだから急がなくてよい、とは限りません。寝ても形が変わらないしこりは、手ざわりと、大きくなる速さで、調べに回すかどうかを決めます。
関連記事:足の付け根のしこり・膨らみは何が原因?痛くない・自然に治るかの見極めと受診の目安を専門医が解説
| しこり | 触ったとき・見たとき | 調べる・取るとき | 主に診る科 |
|---|---|---|---|
| 粉瘤 | ゴムのような弾力。真ん中に黒い点が見えることがある | 赤く腫れるのを繰り返すとき(袋ごと取る) | 皮膚科・形成外科 |
| 脂肪腫 | 押すとやわらかく、年単位でゆっくり育つ | 5cmを超えた、急に大きくなった(脂肪肉腫との区別) | 形成外科・外科 |
| 動脈瘤 | 指を当てると、心臓と同じリズムで脈を打つ | 見つけたとき(放っておくと破裂のおそれ) | 血管外科 |
| リンパ節の腫れ | コリコリと硬い | 痛まず、硬く、少しずつ大きくなるとき | 内科・血液内科 |
表のいちばん下の行にあてはまるリンパ節は、超音波や血液の検査で、悪性リンパ腫や別の臓器からの転移ではないかを見ていく段階です。皮膚の表面のできものか、もっと深いところから出ているのかで行き先に迷うなら、Vラインのしこりの受診先の選び方が手がかりになります。良性の粉瘤や脂肪腫も、痛まないまま育つことがあるので、いつから、どのくらいの速さで大きくなったかを診察でお聞かせいただけると助かります。
検査に回ることと、悪性と決まることは別です。
4. 女性の鼠径部のしこり、片方だけに出たとき
女性では、ここまでの病気にNuck管水腫と大腿ヘルニアの可能性が加わります。
Nuck管水腫は、鼠径管に残った腹膜の袋に水がたまる病気で、20代から40代の女性に見られます。出る場所は鼠径ヘルニアとほぼ同じ。しかしながら、姿勢を変えても大きさがほとんど変わりません。
また、太もも側へ少し下がった位置に膨らむなら、大腿ヘルニアも考えます。鼠径ヘルニアより嵌頓に進みやすく、ガイドラインは成人の大腿ヘルニアのすべてに手術を勧め、症状の無い大腿ヘルニアに手術を強く勧めています(CQ6-1)。
右だけ、左だけ。片側に出るのは珍しくありません。
どちらか片側に出る人のほうが多いのは、鼠径ヘルニアも同じです。生理の周期で腫れや痛みが変わるときの考え方は女性の鼠径部の痛みの見分け方に書いたので、しこりより痛みのほうが気になる方は、そちらからご確認ください。
5. 何科へ行くか、当院の初診で調べること
入口は外科か消化器外科。何のしこりか分からないうちは、まずはこちらをご確認ください。

関連記事:鼠径ヘルニア(脱腸)は何科を受診する?男性・女性別の行き先を専門医が解説
当院の初診では、問診のあと、立った姿勢と寝た姿勢で膨らみを確かめ、立ったまま超音波を当てて腸や脂肪の出入りを見ます。
超音波で決めきれないときは、提携している施設でCTやMRIを撮ることがあります。手術まで考える方は、同じ日に血液検査、心電図、呼吸機能の検査まで済ませておけば、早ければ2日後に手術を行うことができます。

手術をするかどうかは、診断がついてから決めて構いません。困る症状がまだ無いうちは急がなくてよく、手術をしないで様子を見る選択も残っています。当院で行う腹腔鏡による日帰り手術の中身と合わせて、診断のあとに決めれば十分に間に合います。
手術を決めていなくても、何のしこりかを確かめに来てください。予約なしでも診察しますが、混んでいる日は数時間お待たせすることがあるので、電話かWeb、LINEで予約してから来ていただくのが確実です。初めて受診する日の流れや持ち物と医師の経歴と資格も、先に見ておけます。
しこりが脱腸と分かったあとの、手術の方法、費用、再発までの話は、脱腸という病気の全体像にまとめてあります。
参考:鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024(日本ヘルニア学会) CQ5-1・CQ6-1
よくある質問
コリコリと硬く、押しても形が変わらないなら、脱腸よりも、リンパ節や皮膚の下のできものを先に考えます。痛まないまま硬さと大きさが増していくときは、検査で中身を確かめてください。
大きさや痛みだけでは、急ぐかどうかは決められません。小さくても、寝ても消えずに何週間も残るもの、少しずつ大きくなるものは、一度診せてください。