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論文紹介鼠径ヘルニア
所 為然外科部長

論文紹介:術後漿液腫のリスク因子

皆様こんちには、大阪うめだ鼠径ヘルニアMIDSクリニックです。

本日ご紹介する論文は、腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術の漿液腫に関する話です。

タイトル「Modified Frailty Index and Albumin-Fibrinogen Ratio Predicts Postoperative Seroma After Laparoscopic TAPP」

和訳すると「modified Frailty Indexとアルブミン-フィブリノーゲン比は腹腔鏡下TAPP術後の漿液腫を予測する」

PMID:37637752(Google scholarでも見つけれます)

【背景】
術後漿液腫は鼠径ヘルニア根治術後の最も一般的な合併症である。
本研究の目的は、術後漿液腫の潜在的危険因子を特定することである。

【方法】
・デザイン:後ろ向き観察研究
・対象:TAPPを受けた鼠径ヘルニアの高齢者
・漿液腫の同定:ベテラン外科医が身体所見と超音波検査を用いて診断する
・解析:ロジスティック回帰モデル

【結果】
漿液腫の発生割合は11.3%(40/354)
二項ロジスティック回帰分析の結果
 ・肥満(OR:2.98、95%CI:1.20-7.41、P=0.018)
 ・罹病期間≧4.5年(OR:4.88、95%CI:2.14-11.18、P<0.001)
 ・アルブミン-フィブリノゲン比(AFR)値<9. 25(OR:6.13、95%CI: 2.00-18.76、P=0.001)
 ・modified frailty index(mFI)スコア≧0.225(OR:6.38、95%CI:2.69-15.10、P<0.001)
が術後漿液腫の4つの独立した危険因子であった。

【結論】
肥満、罹病期間の延長、AFRレベルの低下、mFIスコアの上昇は、腹腔鏡下TAPP後の術後漿液腫を独立に予測した。

[COMMENT]
術後漿液腫は最もよく見る鼠径ヘルニア根治術の合併症です。
放置してても自然と消退しますが、気になる方は術後に再診して頂き、穿刺吸引しています。
穿刺吸引した方が漿液腫の改善は早いです、が、Mesh感染のリスクは上がってしまいます。

なので、漿液腫が生じないような手術が望ましいのは言うまでもありません。

手術時間を短くし、剥離範囲を出来るだけ小さくすることで漿液腫の発生は減少しえます。それでも手術手技でカバーできない症例も多くあります。

本研究の結果が示すように、アルブミン-フィブリノゲン比が低い方やFrailty indexが高い方は術後漿液腫が発生しやいのですが、つまり低栄養で傷の治りが悪いとリスク因子になります。

この研究であげられている4つのリスク因子の中で、一つだけ回避できるものがあります。それは罹患期間です。
早期に手術するほど、ヘルニア嚢も小さい状態なので、漿液腫になりにくいです。

鼠径ヘルニアを自覚しましたら早めに受診いただければと思います。

著者

外科部長
所 為然Yukinari Tokoro

略歴

2010年3月 広島大学医学部医学科卒業
2010年4月 成田赤十字病院
2012年4月 千葉大学医学部付属病院肝胆膵外科
2014年4月 千葉県がんセンター消化器外科
2017年4月 大阪赤十字病院消化器外科
2022年12月 MIDSクリニック開院
2024年2月 外科部長就任

資格

外科学会専門医/消化器外科学会専門医/消化器がん外科治療認定医/緩和ケア講習会修了

所属

日本外科学会/日本消化器外科学会/日本臨床外科学会/日本医癌学会/日本内視鏡外科学会/日本食道学会/日本ヘルニア学会/日本臨床栄養代謝学会

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