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    【2026年最新】鼠径ヘルニア(脱腸)の症状・写真・治療法・再発までを専門医がわかりやすく解説-日帰り手術対応-

    田村 卓也 田村 卓也
    鼠径ヘルニア(脱腸)の症状・写真・治療法・再発までを専門医がわかりやすく解説

    足の付け根に、立ったときだけ出てくるやわらかいふくらみがあって、横になると引っ込んでしまう。外来でいちばん多くお聞きする「これは何でしょうか」の正体は、たいてい鼠径ヘルニア、昔ながらの言い方をすれば「脱腸」です。

    お腹の壁の弱くなった場所から、腸や脂肪が皮膚の下まで押し出されてくる病気で、自然に治ることはなく、根治の手段は手術だけ。日本ヘルニア学会の診療ガイドラインも、成人編の冒頭でそう明記しています。

    とはいえ、慌てて何かを決める必要はありません。症状の見分け方、型ごとの危険度、手術を急ぐべき状態とそうでない状態。判断に要る材料を、外来で実際にお話ししている順番で並べました。

    • 鼠径ヘルニア(脱腸)とはどんな病気か。日本ヘルニア学会の用語での整理
    • 外鼠径・内鼠径・大腿・閉鎖孔、4つの型と嵌頓しやすさの違い
    • 足の付け根のふくらみ・違和感の見分け方と、すぐ受診すべき嵌頓のサイン
    • 診療ガイドラインが示す検査の考え方と、受診する診療科
    • 鼠径部切開法と腹腔鏡手術(TAPP法)で、成績はどう違うか
    • 術後の痛み・合併症・再発について、ガイドラインの数字で見た実際
    執筆者
    田村 卓也

    日本外科学会 外科専門医

    田村 卓也

    鼠径ヘルニア脱腸日帰り手術大阪アルプスクリニック院長 | 川崎医科大学医学部卒業後、大阪赤十字病院などで臨床経験を積む。鼠径ヘルニア(脱腸)を中心とした腹腔鏡による日帰り手術に注力し、患者さまの身体的負担を軽減すべく2022年に当院を開院。

    監修者
    所 為然

    一般社団法人日帰り手術推進機構 代表理事

    所 為然

    一般社団法人日帰り手術推進機構 代表理事 | 広島大学医学部医学科卒業後、大阪赤十字病院などで臨床経験を積む。身体負担の少ない腹腔鏡下で行う鼠径ヘルニア根治術で、患者さまの早期の社会復帰を実現。鼠径ヘルニア日帰り手術広島アルプスクリニック院長。

    1. 鼠径ヘルニア(脱腸)とは?足の付け根にふくらみができる原因を解説

    「ヘルニア」という言葉は、本来「飛び出す」という意味です。医学では、お腹の壁の弱い場所から、中にあるはずの臓器が押し出されてくる状態をまとめてこう呼びます。飛び出す場所が足の付け根なら鼠径ヘルニアで、外から見えるのは足の付け根のしこりやふくらみ。おへそなら臍ヘルニア、という具合です。

    出てくる中身は腸のことが多いので、昔から「脱腸」と呼ばれてきました。

    1-1. 鼠径部とはどの部分?体の構造と脱腸の仕組み

    太ももとお腹の境目にあたる部分が、鼠径部(そけいぶ)です。腰に手を当てて、指先を斜め下へすべらせていくと、皮膚にしわが入るところに行き着きます。そこが鼠径部。

    鼠径ヘルニアの図

    ここには「鼠径管」と呼ばれる細いトンネルが通っています。男性では精巣へ向かう血管と精管、女性では子宮を支える子宮円索がこの中を通り抜けていて、その周りを腹壁の筋肉と筋膜が何層にも囲んでいる、という構造です。

    通り道がある以上、腹壁としてはどうしても弱くならざるを得ません。年齢とともに筋膜がゆるみ、咳や排便、重い荷物を持ち上げる動作で腹圧がかかるたびに、その弱い場所が少しずつ押し広げられていきます。広がった隙間から、腸や脂肪が皮膚の下へ押し出される。これが脱腸の仕組みです。

    鼠径ヘルニアの解剖図

    立つと出て、横になると引っ込み、咳をするとまた出てくる。患者さんがご自身で最初に気づく経過は、ほぼこのパターンに集約されます。

    1-2. 「脱腸」と「鼠径ヘルニア」は同じ病気?呼び方の違い

    結論から言えば、「脱腸」と「鼠径ヘルニア」は同じ病気です。医学の正式名称が鼠径ヘルニアで、昔から一般に使われてきた呼び名が脱腸、というだけの違いです。

    ここでひとつ、学会の用語の話を挟んでおくと話が早くなります。日本ヘルニア学会の『鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024』では、「鼠径ヘルニア」は外鼠径ヘルニアと内鼠径ヘルニアの2つを指し、これに大腿ヘルニアを加えたものを「鼠径部ヘルニア」と呼び分けています。「鼠径」と「鼠径部」で一字違いなので、医師どうしでも混同しやすいのですが、以下では大腿ヘルニアや閉鎖孔ヘルニアも含めた広い意味で「鼠径ヘルニア(脱腸)」と呼びます。

    「先生、これは脱腸ではないんですか」「鼠径ヘルニアと言われたけれど、脱腸とは別物ですか」。外来で本当によく受ける質問で、同じ病気だとお伝えするだけで肩の力が抜ける方が多い。

    1-3. 鼠径ヘルニアの原因と発症しやすい人

    大人の鼠径ヘルニアで、原因がひとつに絞れることはあまりありません。ガイドラインの成人編(CQ1-1)は、発症の危険因子として次のようなものを挙げています。

    • 男性であること、年齢が高いこと
    • 家族に鼠径ヘルニアを経験した人がいること
    • 痩せ型(BMIが正常〜低め)
    • 肉体労働、慢性の咳、慢性閉塞性肺疾患(COPD)
    • 前立腺の手術歴、前立腺肥大などの排尿の障害、腹膜透析
    • 子どもの脱腸の原因である腹膜の袋(鞘状突起)が、大人になっても開いたまま残っていること

    痩せている人のほうがなりやすい、という点は意外に思われるかもしれません。肥満は発症リスクをむしろ下げるという報告が多い一方で、太っている方が嵌頓(かんとん)を起こしやすいという報告もあり、体型は「どちらが得」という単純な話にはなりません。

    子どもの脱腸は、大人とは事情が違います。精巣が下りてくるときに通った腹膜の袋(鞘状突起)が閉じきらずに残ったもので、生まれつきの構造が原因。この袋が大人になっても開いたまま残っている人は、そうでない人に比べて外鼠径ヘルニアを約4倍発症したという報告があります(CQ1-1)。

    区分危険因子補足
    体質男性・高齢・家族歴・痩せ型家族歴は遺伝子の関与も
    生活肉体労働・慢性の咳・喫煙・飲酒報告により結果が分かれる
    病歴COPD・前立腺全摘・排尿障害・腹膜透析腹圧が上がる状態
    小児期鞘状突起の開存外鼠径ヘルニアの素地

    頻度の話もしておきます。男性のおよそ3人に1人、女性のおよそ20人に1人が、一生のうちに鼠径ヘルニアを経験するとされています。聞くと驚かれる数字ですが、それくらいありふれた病気で、国内では月に11,000件ほどの手術が行われている、外科で最も多い手術のひとつです。

    田村卓也 院長

    専門医のワンポイント

    外来でご相談を受けるなかで、「自分だけがなった」とおっしゃる方が多いです。問診で家族のことを伺うと、「そういえば父も脱腸だった」と思い出される。初診で家族歴や前立腺の手術歴、長引く咳の有無まで細かくお聞きするのは、この病気の背景を一緒に整理するためで、答えられる範囲で構いません。

    2. 鼠径ヘルニアの種類と特徴(外鼠径・内鼠径・大腿ヘルニアなど)

    「鼠径ヘルニア」と一口に言っても、出てくる場所と仕組みで型が分かれます。日本ヘルニア学会は2021年版の分類(新JHS分類)で、外鼠径ヘルニアをL型、内鼠径ヘルニアをM型、大腿ヘルニアをF型と呼び、それぞれをヘルニア門の大きさで1〜3型に分け、複数が同時にあるものを併存型、どれにも属さないものを特殊型と整理しました。ガイドラインはこの分類を使うことを推奨しています(CQ4-1)。

    型が分かると何が変わるかというと、手術で補強すべき場所の判断と、嵌頓しやすさの見立てです。

    2-1. 外鼠径ヘルニアの特徴

    鼠径ヘルニアの解剖図

    いちばん多いのが外鼠径ヘルニアで、全体の約7〜8割を占めます。鼠径管の入口(内鼠径輪)から精索に沿ってヘルニア嚢が出てくる型です。ふくらみは鼠径部から始まり、男性では陰嚢のほうへ下りていくこともあります。

    背景には先天的な要素が絡んでいます。1-3で触れた鞘状突起の開存がその代表で、若い方の脱腸はまずこの型。重い物を扱う仕事など職業的な機械的作業が関係するという報告も、外鼠径ヘルニアに限ってのものです(CQ1-1)。

    入口が締まっているぶん、押し出された腸が戻りにくくなることがあり、嵌頓の可能性を常に頭に置いておくべき型です。

    2-2. 内鼠径ヘルニアの特徴

    内鼠径ヘルニアの解剖図

    二番目に多いのが内鼠径ヘルニアで、全体の約2〜3割。鼠径管の入口ではなく、その奥の壁(後壁)が薄くなって、腹膜が直接押し出されてくる型です。下腹壁動静脈という血管の内側から出るので「内」鼠径。

    中高年の男性に多く、加齢で組織がゆるむことが主因です。肥満や高身長が危険因子として挙げられているのはこの型で(CQ1-1)、壁がじわじわ広がるタイプなので、ふくらみは比較的広く、押すと戻りやすい傾向があります。

    2-3. 大腿ヘルニアの特徴

    大腿ヘルニアの解剖図

    大腿ヘルニアは、鼠径靭帯の下、太ももの付け根寄りにある「大腿輪」という小さな穴から出てくる型です。ふくらみの位置が外鼠径・内鼠径より下に来る、というのが見分けの手がかり。

    教科書的には「高齢で痩せ型、出産回数の多い女性に多い」とされてきました。妊娠・出産で腹圧がかかって大腿輪が広がる、という説明です。もっとも、ガイドラインはこれを支持する明確なエビデンスはないとしています(CQ2-1)。

    気をつけたいのは、この型の嵌頓しやすさで、穴が小さく硬いので、いったん腸がはまり込むと戻りません。大腿ヘルニアは無症状でも手術が勧められます。2018年の国際ガイドラインは経過観察より手術を強く推奨しており、日本のガイドラインも待機的な手術が望ましいという立場です(CQ6-1)。

    2-4. 閉鎖孔ヘルニアの特徴

    4つのなかで最もまれで、最も診断が難しいのが閉鎖孔ヘルニアです。新JHS分類では、L・M・Fのどれにも属さない「特殊型」に入ります。

    骨盤の骨(恥骨と坐骨)に囲まれた閉鎖孔という穴から、腹膜と腸が抜け出す。場所が深いので外からふくらみはほとんど見えず、代わりに出るのが太ももの内側の痛みやしびれ。閉鎖孔を通る閉鎖神経が押されるためで、痩せた高齢の女性に多い型です。

    「太ももの内側が痛い」で整形外科を回り、腸閉塞を起こしてから見つかる、という経過を実際の診療で何度か経験しています。

    2-5. 鼠径ヘルニアの鑑別診断ポイント

    4つの型の違いを、一覧で見比べられるようにしておきます。

    新JHS分類多い人ふくらみの位置嵌頓
    外鼠径L型男性・全年齢鼠径部〜陰嚢注意
    内鼠径M型中高年男性鼠径部の内側低め
    大腿F型高齢女性太ももの付け根高い
    閉鎖孔特殊型痩せた高齢女性外から見えにくい高い

    とはいえ、表だけで自己判断するのは難しいものです。大腿ヘルニアが「上側」に出て鼠径ヘルニアに見えることもあり、診察では立った姿勢でふくらみの出方を確かめます。

    参考:鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024(日本ヘルニア学会)

    3. 鼠径ヘルニアの見た目と症状チェック【写真で確認】

    「これは病気でしょうか」という問いが、外来でいただくご相談の入口です。足の付け根のしこりや違和感に気づいたとき、まず知りたいのはそこだと思うので、段階ごとのサインを並べます。

    まず、実際の写真から。患者さんの許可をいただいて掲載している、当院での腹腔鏡下の写真です。お腹の内側からカメラで見た、鼠径ヘルニアの実物。

    鼠径ヘルニアの腹腔鏡写真(左)
    左側
    鼠径ヘルニアの腹腔鏡写真(右)
    右側

    3-1. 足の付け根にふくらみが出る理由

    最もわかりやすいサインは、足の付け根のふくらみです。中身は腸や脂肪で、筋膜の弱い場所から皮膚の下へ押し出されたもの。

    ふくらみの特徴的なパターン

    鼠径部のふくらみ

    足の付け根・
    鼠径部にふくらみ

    腹圧で目立つふくらみ

    腹圧をかけた時に
    ふくらみが目立つ

    典型は、立つと出て、押し込むか横になると消えるやわらかいふくらみで、次の項目に当てはまるかどうかを確かめてみてください。

    • □ 手で押すとやわらかく、押し込むと引っ込む
    • □ 咳・くしゃみ・重い物を持つと、ふくらみが大きくなる
    • □ 横になると小さくなるか、完全に消える

    押すと戻るこの状態を、医学では「還納可能」と言います。ガイドラインは、還納可能なふくらみがあれば病歴と診察で診断は容易で、画像検査をルーチンで行う必要はないとしています(CQ3-1)。診察室で分かる病気、というのがまず押さえておきたい点です。

    実際の症例写真で確認

    冒頭の写真を、もう一度見てください。

    鼠径ヘルニアの腹腔鏡写真(左)
    左側
    鼠径ヘルニアの腹腔鏡写真(右)
    右側

    この方は右側の嵌頓で受診された方で、腹腔鏡でお腹の中を見ると、症状のなかった左側にもヘルニアが見つかった。術前には分からず、手術中に初めて診断されるヘルニアを「オカルトヘルニア」と呼びます(CQ10-1)。

    片側の手術中に反対側を調べると、13〜22%にオカルトヘルニアが見つかるという報告があります(CQ10-1)。国際ガイドラインは、事前に十分な説明があれば同時に修復することを勧めていて(CQ10-2)、当院でも原則として同時に直しています。あとから反対側だけをもう一度手術するのは避けたい、という判断です。

    3-2. 初期症状と進行に伴う違和感・痛み

    はっきりしたふくらみが出る前にも、サインはあります。

    • 歩くと足の付け根がつっぱる
    • 立ち上がるときに違和感がある
    • 重い物を持つと、足の付け根が重だるい
    • 昼間は何もないのに、夕方や夜になるとふくらみが出る

    日本ヘルニア学会のガイドラインも、「ふくらみがはっきりしないのに痛みや違和感がある」「診察時には出ないが夜間に出る」といった場合を想定していて、そのときは立った姿勢でお腹に力を入れながら行う超音波検査を第一選択に挙げています(CQ3-1)。小さなVラインのしこりとして気づかれることもあります。

    違和感だけの段階で受診される方は、正直なところ多くありません。「気のせいかも」と考えるのは自然なことですが、進行する前のほうが手術の選択肢は広く取れます。

    3-3. 嵌頓(かんとん)による緊急症状

    嵌頓のイメージ図

    この病気の怖さは、この章に集約されます。

    出たり戻ったりしていたふくらみが、ある日戻らなくなり、押しても動かず、硬くなって痛みが強まる。これが嵌頓(かんとん)の始まりです。

    はまり込んだ腸は、中身の流れが止まって腸閉塞になり、血流が途絶えると壊死に進みます。ガイドラインの緊急手術の章が扱うのはまさにこの「嵌頓・絞扼性ヘルニア」で、腸閉塞や腸管壊死を伴うことがあり、腸を切除する手術が必要になる場合もあると書かれています(CQ19-1)。

    すぐに受診すべきサイン

    • ふくらみが押しても戻らない
    • ふくらみが硬く、痛みが強い
    • 吐き気・嘔吐がある
    • お腹全体が張って、便やガスが出ない

    嵌頓はいつ起きるか予測できないので、診断がついた時点で予定手術を考えておくのが、この病気との向き合い方の基本になります。

    4. 鼠径ヘルニアの原因と発症リスクが高い人の特徴

    1章で危険因子を並べたので、ここでは「なぜ」の部分を少し掘り下げます。ご自身が当てはまるかどうかを知っておくと、症状が出たときに動きが早い。

    4-1. 加齢・体質・腹圧などの原因

    大人の脱腸の土台は、腹壁の弱さです。もともと鼠径管という通り道があるうえに年齢とともに筋膜がゆるみ、そこに腹圧がかかり続けると隙間が広がっていきます。

    腹圧を上げる状態として、ガイドラインは慢性の咳、COPD、前立腺肥大などの排尿の障害、腹膜透析を挙げています(CQ1-1)。便秘で毎日いきむことや、重い荷物を運ぶ仕事も、同じ方向に働きます。

    体質の側で目立つのは家族歴で、コラーゲンを作る遺伝子の多型と鼠径ヘルニアの発症との関連が報告されており、腹部大動脈瘤と鼠径部ヘルニアに共通する遺伝子の関与を示す報告もあります(CQ1-1)。「父も祖父も脱腸だった」という方が外来にいらっしゃるのは、偶然ではないようです。

    4-2. 高齢者・痩せ型・男性に多い理由

    男性、高齢、痩せ型の3つは、ガイドラインが挙げる危険因子のなかでも代表的なものです(CQ1-1)。

    男性に多いのは、精巣が下りてくる通り道として鼠径管が太く長いからです。女性の鼠径管は子宮円索が通るだけなので、構造として細い。手術を受ける人の約85%が男性で、発症のピークは子どものころに一度来て、50歳を過ぎてから再び増えていきます。

    年齢層データ
    小児期発生率約3%、男女比 8:1
    成人期以降男性 3人に1人 / 女性 20人に1人

    痩せ型については、BMIが正常から低い人ほど発症リスクが高く、過体重や肥満ではむしろ低いという報告が多い(CQ1-1)。腹壁を内側から支える脂肪が少ないことが関係しているのでしょう。ただし内鼠径ヘルニアに限ると肥満と高身長が危険因子で、型によって逆になる。

    当てはまる方は、ときどきご自身で鼠径部を触ってみる習慣を持っていただくと、早く見つかるぶん選べる手段が多くなります。

    4-3. 妊娠・出産との関係と女性特有のリスク

    女性の脱腸は男性より少ないのですが、少ないだけで珍しいわけではありません。手術を受ける人のうち女性は約15%。割合だけ聞くとピンとこないかもしれませんが、年間2万人ほどの女性が、この病気で手術を受けている計算になります。

    型の内訳が、男性とは違います。最も多いのは同じく外鼠径ヘルニアですが、二番目に大腿ヘルニアが来る。出産回数の多い痩せ型の高齢女性に多い、と教科書的には言われてきました(CQ2-1)。

    妊娠中の鼠径部のしこりや痛みには、もうひとつ別の原因があって、それが子宮円靭帯静脈瘤です。血流を映す超音波(カラードプラ)で見分けがつくと、ガイドラインは述べています(CQ3-1)。

    もうひとつ知っておきたいのは、手術のあとに慢性の痛みが残る危険因子として、ガイドラインは「女性」を挙げています(CQ17-1)。女性の手術では、術後の痛みの経過をより丁寧に追う必要がある。

    田村卓也 院長

    専門医のワンポイント

    外来でご相談を受けるなかで、「脱腸は男性の病気だと思っていた」とおっしゃる女性が多いです。数が少ないのは事実ですが、女性には大腿ヘルニアや閉鎖孔ヘルニアという、外から見えにくく嵌頓しやすい型が混じります。太ももの内側がしびれる、ふくらみは無いのに違和感が続く。そんなときに「ヘルニアの可能性はありませんか」と一言添えていただけると、遠回りを減らせます。

    5. 鼠径ヘルニアの検査と診断方法は?何科を受診すべき?

    「何科に行けばいいのか」は、この病気の初診でいちばん多い質問です。しこりを見つけて検索して、それでも迷う方が多いので、順を追って整理しておきます。

    5-1. 視診・触診・超音波検査の流れ

    診断の基本は、視て、触れることに尽きます。立った姿勢でお腹に力を入れていただき、ふくらみの出方を確かめます。

    問診で伺うのは「いつから」「どんなときに出るか」「どうすると戻るか」。この3つの答えだけで、ある程度の見立てはつきます。

    画像検査は、必ずしも要りません。ガイドラインは、押すと戻るふくらみがある鼠径部ヘルニアに対して、ルーチンの画像検査は推奨しないとしています(CQ3-1)。一方で、ふくらみがはっきりしない、痛みだけがある、あるいはふくらみが戻らない、といった場合は話が別で、超音波を第一選択に、必要に応じてCTやMRIを使い分けます。

    検査向いている場面注意点
    超音波立位・腹圧で動きを見る簡便で体への負担が少ない
    CT嵌頓時、お腹の中の評価仰向けだと戻りやすい・被ばく
    MRI筋・関節・婦人科疾患との鑑別体への負担は少ない
    ヘルニオグラフィー診断能は高い負担があり一般的でない

    当院では、視診・触診で迷うときに超音波を加え、ヘルニア嚢の存在と中身まで確認しています。

    5-2. 泌尿器科と外科のどちらに行くべきか

    結論を先にお伝えすると、受診先は外科または消化器外科です。

    脱腸の手術は外科の手術で、診察から手術、術後の経過まで一貫して見られます。泌尿器科が向くのは、陰嚢の腫れそのものや排尿の症状が主体のとき。ガイドラインが前立腺全摘や排尿の障害を鼠径ヘルニアの危険因子に挙げているように(CQ1-1)、泌尿器科に通院中の方に脱腸が見つかることもよくあります。その場合も、ヘルニアそのものの治療は外科が担当します。

    5-3. 正確な診断を受けるための注意点

    鑑別が一段難しくなる場面もあります。ガイドラインが画像検査の出番として挙げているのは、精巣の腫瘤やNuck管嚢腫、内転筋の腱炎、恥骨炎、股関節症、腸骨の滑液包炎、子宮内膜症など(CQ3-1)。鼠径部の痛みには、ヘルニア以外の原因も多いのです。

    診断がつけば、どの型か(新JHS分類)も記録します。分類をそろえることで治療方針の検討や施設間の成績比較ができる、というのがガイドラインの説明で(CQ4-1)、2021年4月からは全国的な症例登録(NCD)への入力も始まっています。

    当院では初診の段階で、鼠径ヘルニアかどうかと、日帰り手術の適応に入るかどうかを同じ日に確認しています。手術方法の説明もこのときに行い、ご都合に合わせて、無理のない日程で手術日を組みます。

    参考:鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024(日本ヘルニア学会)

    6. 鼠径ヘルニアは自然治癒できる?手術が必要な理由を解説

    「自然に治りませんか」という質問も定番で、手術は誰でも避けたいというのが本音でしょう。結論はひとつです。大人の鼠径ヘルニアは自然には治りません。ガイドラインの成人編も、冒頭でそう言い切っています(CQ5-1)。

    6-1. なぜ自然には治らないのか

    理由は構造にあって、腹壁に開いた隙間から内臓が出てくる病気なので、隙間を塞がない限り終わりません。

    鼠径ヘルニアの解剖図
    • 筋膜は、筋肉と違って鍛えても厚くならない
    • 隙間は加齢でゆるむ方向にしか進まない
    • 咳・排便・運動など日常の腹圧で、少しずつ広がる
    • 脱腸帯(ヘルニアバンド)は外から押さえるだけで、穴は閉じない

    隙間を塞ぐ手段は手術で、糸で縫い合わせる「組織縫合法」と、人工のシート(メッシュ)で腹壁を補強する「メッシュ法」があり、今は鼠径部切開法でも腹腔鏡でも、メッシュ法が主流になっています。

    6-2. 放置によるリスクと手術の必要性

    では、見つかったら必ずすぐ手術なのかというと、ここは正直に書いておきます。

    症状がない、あるいはごく軽い大人の鼠径ヘルニアについて、ガイドラインは「十分な説明のうえで、手術と経過観察のどちらも許容される」としています(CQ5-1)。手術の優位性を証明できるだけのデータがない、というのが理由です。

    ただし、経過観察を選んだ人のその後も書かれています。3年の経過で約38%が結局手術を受け、そのうち嵌頓が5例、腸を切除した絞扼性ヘルニアが1例。数年以内に3割以上が手術に至った、という数字です(CQ5-1)。

    もうひとつ。手術のあとに残る慢性的な痛みは、最初から手術した人で10.7%、経過観察のあとで手術に至った人で26.3%と、後者で多かった(CQ5-1)。待つこと自体にも代償がある、ということです。

    状態ガイドラインの考え方当院での対応
    症状なし説明のうえ、手術・経過観察どちらも可相談して決める
    症状あり手術予定手術
    大腿ヘルニア無症状でも手術早めに予定
    嵌頓緊急手術救急受診

    長く放っている方が、嵌頓の一歩手前を経験していることがあります。いつもは戻るのにその日だけ戻らず、冷や汗をかきながら押し込んで、何分かしてようやく戻った。これは次が近いサインです。

    田村卓也 院長

    専門医のワンポイント

    外来でご相談を受けるなかで、「まだ大丈夫なので様子を見たい」と話される方が多いです。経過観察はガイドラインでも認められた選択肢なので、それ自体は否定しません。ひとつだけお願いしているのは、戻らなくなったときにどこへ行くかを先に決めておくこと。嵌頓は出張先や旅行中にも起き、近くに手術できる施設があるとは限りません。そこまで含めて、一緒に考えます。

    6-3. 嵌頓による腸閉塞・壊死の危険性

    嵌頓が起きたとき、体の中で何が進んでいるのかを整理しておきます。

    締めつけられた腸は流れが止まり(腸閉塞)、血流が途絶えれば壊死に向かいます。血流が止まってから8時間ほどで腸の組織は壊死しはじめ、腸壁に穴が開く(腸管穿孔)。そこから腹膜炎、敗血症へと一気に進むので、時間との勝負になります。

    腸を切除する必要が出るような嵌頓・絞扼性ヘルニアの手術でも、ヘルニア嚢の中が汚染されていなければメッシュの使用は許容される。ただし腸に穴が開いていたり膿がたまっていたりする明らかな感染例には使うべきでない。ガイドラインはそう整理しています(CQ19-1)。腸の壊死が疑われるときは、まず腹膜を閉じるだけにして、感染が落ち着いてから二期的にメッシュで根治する方法もある(CQ19-2)。予定手術なら1回で済むものが、嵌頓してからだと2回になることがある、ということです。

    なお、嵌頓してからの手術で、腹腔鏡と鼠径部切開法のどちらが良いかについては、ガイドラインはまだ結論を出していません(CQ19-2)。腹腔鏡のほうが再発や合併症が少ない可能性はあるものの、質の高い比較試験が無いためです。

    7. 鼠径ヘルニアの手術は鼠径部切開法と腹腔鏡手術のどちらを選ぶべき?特徴を解説

    手術には大きく2つの入り方があって、鼠径部の皮膚を切って直接ヘルニア門に到達する「鼠径部切開法」と、お腹の中からカメラで見て修復する「腹腔鏡手術」。ガイドラインの用語では、腹腔鏡でお腹の中に入り、腹膜をはがして修復するのがTAPP、腹膜の外側だけを進んで修復するのがTEPで、当院が行っているのはTAPP法です。

    7-1. 鼠径部切開法(従来からある手術法)

    皮膚を数cm切開して、皮下組織と筋膜を一層ずつ分け、ヘルニア門を直接見ながらメッシュで補強する方法です。日本ではLichtenstein法のほか、Plug法、Bilayer法、Kugel法など多様な術式が行われてきました(CQ18-1)。

    鼠径部切開法の解説図

    術式どうしの優劣について、ガイドラインはLichtenstein法とその他の切開メッシュ法で臨床成績に大きな差はなく、執刀医が習熟した方法で行うのがよいとしています(CQ7-2)。麻酔は局所麻酔が推奨されています(CQ15-1)。全身麻酔や下半身の麻酔に比べて、術後の尿閉や吐き気が少ないためです。もっとも、日本で局所麻酔だけで行う施設は比較的少数だとも書かれています。

    鼠径部切開法の特徴

    • 数cmの切開で、直視下に修復する
    • 特別な機器を要さず、多くの施設で実施できる
    • 局所麻酔が選べる
    • 全身麻酔ができない方や、開腹手術の影響で癒着が強い方に向く(CQ7-1)

    一方で創は陰部に近く、そのぶん術後の創の管理には気を使います。

    7-2. 腹腔鏡手術(小さな創で回復が早い術式)

    こちらが当院の術式で、3〜5mmの小さな創を3か所につくり、カメラでお腹の内側から鼠径部を見ながら、腹膜の裏側にメッシュを敷いて弱い部分をまとめて覆います。

    腹腔鏡手術の解説図

    切開法との比較は、ガイドラインが19のランダム化比較試験をまとめています(CQ7-1)。腹腔鏡手術のほうが、手術部位感染、術後早期の痛み、慢性疼痛が少なく、職場や日常生活への復帰が平均3.6日ほど早い。一方で、血管損傷や精巣の痛み、術式の変更が多く、手術時間は平均10分ほど長い。再発率と臓器損傷、尿閉については、両者に差がありませんでした。

    良い面ばかりではない、というのが公平な読み方で、だからガイドラインの結論はこうなっています。腹腔鏡手術に十分習熟した外科医が行う場合には、初発片側の男性鼠径ヘルニアに腹腔鏡手術が推奨される(CQ7-1)。習熟に必要な経験数は、腹腔鏡で100〜400例、切開法で50〜63例と、腹腔鏡のほうが明らかに多いとも書かれている(CQ21-1)。

    腹腔鏡手術と鼠径部切開法の比較

    項目鼠径部切開法腹腔鏡手術
    数cm・1か所3〜5mm・3か所
    麻酔局所麻酔が可全身麻酔
    感染少ない
    早期の痛み少ない
    慢性疼痛少ない
    復帰早い
    血管損傷・精巣痛少ない
    手術時間短い長い
    再発率差なし差なし
    両側の場合2か所を切開同じ創で両側

    上の表は、ガイドラインCQ7-1・7-3の記載をもとに整理したものです。両側にヘルニアがある場合は、同じ創から両側を治せる腹腔鏡手術が望ましいとされています(CQ7-3)。80歳以上ではどちらを選んでも差し支えない(CQ9-1)。

    日帰り手術との相性

    ガイドラインは日帰り手術を「同じ日に入院、手術、退院すること」と定義し、多くの鼠径ヘルニア手術が日帰りで行われていることは知られている、と述べています(CQ11-1)。重い基礎疾患のある方(ASA3以上)については、術前評価や退院後の連絡体制を整えたうえで検討すべき、という条件つき。当院が初診時に日帰りの適応を確認するのは、この線引きのためです。

    全身麻酔と聞いて、尿道カテーテルを入れるのか費用はいくらかかるのかを気にされる方も多い。どちらも別の記事に分けて書いています。

    メッシュそのものについても触れておくと、軽量と重量のどちらか一方を強く勧めることはできない、というのがガイドラインの立場(CQ12-1)。固定方法についても、縫合糸に比べてタッカーや接着剤を推奨する明確な根拠はない(CQ13-3)。術式と同じで絶対の正解はなく、術者が特性を理解して選ぶものです。

    参考:鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024(日本ヘルニア学会)

    8. 鼠径ヘルニア手術後の痛みや合併症は?再発を防ぐために知っておきたいこと

    手術を決める前に、その後どうなるかを知っておいていただきたい。事前に知っているかどうかで、術後の不安はずいぶん違うので、痛み、合併症、再発の3つを順に書きます。

    8-1. 手術後の痛みはいつまで?日常生活への復帰時期

    正直にお伝えすると、痛みがまったく無いということはありません。創の痛みと、メッシュを敷いた場所の張りが、数日は残ります。痛み止めを使いながら、日常生活やデスクワークはこなせる範囲に収まる方がほとんどです。

    腹腔鏡手術は切開法に比べて術後早期の痛みが少なく、職場や日常生活への復帰が平均3.6日ほど早い。これが先ほどのデータです(CQ7-1)。当院で実際にお伝えしている復帰の目安を、表にしておきます。

    活動復帰時期の目安
    デスクワーク術後1日目から
    シャワー浴手術当日から
    入浴(湯船)術後3日目から
    飲酒術後3日目から
    喫煙術後7日目から
    運動・筋トレ術後10日目以降

    8-2. 漿液腫や腸閉塞など術後の合併症と対処法

    合併症は「起きうるもの」として、確率ごと知っておくのがいちばんです。ガイドラインが手術成績の評価に使っている項目は、漿液腫・血腫、尿閉、精巣痛、血管損傷、臓器損傷、手術部位感染、慢性疼痛、そして再発(CQ7-1)。このうち腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術について、日本内視鏡外科学会の全国集計では各項目とも低い数値が出ています。

    合併症発生頻度特徴・対処法
    漿液腫4.4%手術部位にリンパ液が貯留。術後2週間までに発症し、多くは自然消失
    腸閉塞0.14%腹膜縫合部への腸管癒着が原因
    出血0.14%まれ。止血処置で対応
    神経損傷0.06%きわめてまれ
    腸管損傷0.06%きわめてまれ
    メッシュ感染0.04%きわめてまれ

    慢性疼痛については、ガイドラインが独立した章を設けています。術後3か月を過ぎても続く痛みで、発生率は報告によって0.7%から75%まで幅がある(CQ17-1)。報告によってこれほど幅があるのは、痛みの評価方法がそろっていないためです。危険因子は、女性、50歳以下、再発ヘルニアの手術、術後早期の強い痛み、術前からの痛み(CQ17-1)。

    慢性疼痛に対して神経を切除する手術は、効果が期待できるものの推奨と言えるレベルではない、という評価です(CQ17-3)。腹腔鏡手術で慢性疼痛が少ないという結果(CQ7-1)は、この痛みを避ける意味でも意味のあるデータ。

    8-3. 鼠径ヘルニアの再発リスク

    ガイドラインは再発を「合併症のひとつ」と位置づけています。小児期に治療したあとの再発も含めて、です。

    気になるのは再発の可能性でしょう。腹腔鏡手術の再発率は1%未満と報告されていますが、ゼロにはなりません。腹腔鏡手術と切開法で、再発率に有意な差はありません(CQ7-1)。メッシュの種類では重量メッシュのほうが再発が少なかったという解析があり(CQ12-1)、固定の有無や方法で差は証明されていない(CQ13-2・13-3)。

    万一再発した場合、前回と違う入り方で治すのが原則です。切開法のあとの再発には腹腔鏡を、腹腔鏡のあとの再発には切開法を、というのが国際・欧州のガイドラインの推奨で、前回の手術で癒着のない側から入るほうが安全側だからです(CQ18-1)。再発ヘルニアの手術は慢性疼痛の危険因子でもあるので(CQ17-1)、初回の手術で治しきることに大きな意味があります。

    8-4. 創部感染とメッシュ感染のリスク

    ヘルニアの手術は、消化管を切らない清潔手術です。それでも皮膚の常在菌による創部感染をゼロにはできない。ガイドラインは予防的な抗菌薬の投与が手術部位感染を減らすとして、実施を条件つきで推奨しています(CQ14-1)。当院でも、手術のときに投与しています。

    怖いのは、メッシュにまで感染が及ぶことで、そうなると抗菌薬だけでは治しきれず、メッシュを取り除く再手術になることがあります。ガイドラインが引用する術式比較のランダム化比較試験6編(1,803例)ではメッシュ感染の報告は無く(CQ12-1)、まれな合併症ではある。ただ、メッシュが何十年も体内にある状態が安全と証明されているわけではない、とも正直に書かれています。

    感染のリスクには、術式も関わってきます。腹腔鏡手術の手術部位感染は切開法の3分の1程度(CQ7-1)。創が陰部から離れた小さな3か所で、メッシュを置く場所からも距離があるためです。

    田村卓也 院長

    専門医のワンポイント

    外来でご相談を受けるなかで、術後2週間ほどして「ふくらみが戻った気がする」と連絡をくださる方が多いです。9割以上は再発ではなく漿液腫で、手術した場所にリンパ液が一時的にたまっているもの。再発かどうかは超音波で見分けがつくので、自己判断で諦める前に一度外来で見せてください。

    9. 鼠径ヘルニアと間違えやすい病気の違いをわかりやすく解説

    鼠径部のふくらみやしこりが、すべて脱腸とは限りません。ガイドラインが鑑別に挙げているのは、精巣の腫瘤、Nuck管嚢腫、内転筋腱炎、恥骨炎、股関節症、腸骨滑液包炎、子宮内膜症、妊娠中の子宮円靭帯静脈瘤(CQ3-1)。このうち、外来で特に紛らわしい2つを取り上げておきます。

    9-1. 陰嚢水腫・精索水腫との違い

    陰嚢水腫は、精巣を包む膜の中に液体がたまって陰嚢がふくらむ病気です。精索水腫は、それが精索の途中にたまったものです。赤ちゃんの男の子でよく見られますが、大人でも起こります。

    脱腸との見分け方は、実はシンプルです。水腫は陰嚢の中だけがふくらんで、押しても引っ込まない。脱腸は鼠径部から続いていて、押せば戻る。迷うときは超音波で、中身が液体なのか腸なのかを確かめます。

    9-2. Nuck管水腫(女性に多い疾患)

    20〜40代の女性で鼠径部のしこりを見たとき、まず候補に挙がるのがNuck管水腫(ヌックかんすいしゅ)です。

    Nuck管は、子宮円索とともに鼠径管に入り込んだ腹膜の袋の名残。本来は閉じるものが残って液体がたまると、鼠径部にやわらかいしこりとして触れます。見た目だけではヘルニアと区別しにくく、ガイドラインもNuck管嚢腫を画像検査が必要になる例として挙げています(CQ3-1)。超音波で液体の袋であることを確かめれば、診断がつく。

    治療は、針で液を抜く方法と、袋そのものを手術で切除する方法の2つです。どちらにするかは、痛みの程度や大きさを見ながら相談して決めます。

    まとめ

    放っておいて治る病気ではありません。いつ嵌頓するかは誰にも分からないので、診断がついた時点で手術の段取りを考えておくほうが、生活の主導権を自分で握れる。そういう種類の病気です。

    • 症状:足の付け根のふくらみ・違和感。立つと出て、横になると消える
    • 種類:外鼠径(L型)・内鼠径(M型)・大腿(F型)・閉鎖孔(特殊型)。大腿と閉鎖孔は嵌頓しやすい
    • 診断:外科または消化器外科へ。視診・触診が基本で、迷うときは超音波
    • 治療:自然には治らない。無症状なら経過観察も許容されるが、大腿ヘルニアは手術
    • 術式:習熟した外科医が行う腹腔鏡手術は、感染・早期の痛み・慢性疼痛が少なく復帰が早い
    • 術後:翌日からデスクワーク復帰可。再発率は1%未満。ふくらみが戻ったら漿液腫の可能性もあるので受診を

    足の付け根のしこりやふくらみが気になっている方は、症状が軽いうちに一度ご相談ください。当院は大阪駅前第2ビル1階にあり、梅田駅から徒歩5分です。月・水〜土は21時まで、火曜と日・祝は17時まで診療しています(17時以降と火曜・日祝は要予約)。電話・Web予約・LINEでのご予約・ご相談は、24時間365日受け付けています。