鼠径ヘルニアの腹腔鏡手術後の痛みと回復期間を専門医が解説
鼠径ヘルニア(脱腸)の手術が終わったあと、いちばん気になるのは「いつ、何ができるようになるのか」だと思います。シャワーはいつから浴びていいのか。仕事はいつ戻れるのか。お酒は。
痛みについては、手術のあと早い時期の痛みをがまんしないほうがよい理由があります。日本ヘルニア学会の診療ガイドラインは、術後早期の痛みを、長く残る痛みの危険因子のひとつに挙げています。
時期ごとの目安と、すぐにご連絡いただきたい症状をまとめました。当院で腹腔鏡の手術を受けられた方を想定していますが、考え方そのものはほかの術式でも大きくは変わりません。
この記事で分かること
- シャワー・入浴・飲酒・運転・運動の再開時期の早見表
- 痛みのピークがいつ来て、鎮痛剤をどう使うか
- 術後早期の痛みをがまんしないほうがよい理由
- 仕事に戻る時期の考え方
- すぐにご連絡いただきたい症状
- 再発を減らすために気をつけたいこと
目次
1. 回復の早見表 ― いつ何ができるようになるか
先に全体像をお示しします。当院で腹腔鏡でおこなう鼠径ヘルニアの手術を受けられた方の目安で、手術そのものの流れと費用は鼠径ヘルニア・脱腸の日帰り手術と費用についてにまとめてあります。
| できるようになること | 時期 |
|---|---|
| 食事(制限なし) | 手術当日から |
| シャワー | 手術当日から |
| デスクワーク・車の運転 | 術後1日目から |
| 内服薬の再開(抗凝固薬を含む) | 術後1日目の朝から |
| 入浴・飲酒 | 術後3日目から |
| 散歩・軽いジョギング・短時間の水泳 | 術後1週間から |
| 性生活 | 術後1週間から |
| 筋力トレーニング | 術後10日目以降 |
| 腹筋運動・ゴルフ | 術後2週間から |
| 立ち仕事・肉体労働 | 仕事の内容で変わります。診察のときにご相談ください |

あくまで目安で、体調や傷の治り方には個人差があります。表より早く動けそうでも、痛みが出るところで止めておいてください。
関連記事:鼠径ヘルニア(脱腸)の手術費用はいくら?3割負担の目安と高額療養費を専門医が解説
2. 手術のあとの痛みは、がまんしないほうがいい
痛みのピークは、その日の夜から翌日にかけて
痛みには、傷そのものの痛みと、剥離した鼠径管の近くから来る痛みの2種類があります。まったく痛まないということはありません。ただ、痛み止めを併用すれば、ふだんの生活やデスクワークはできることがほとんどです。
ピークが来るのは、手術当日の夜から翌日にかけて。ここを鎮痛剤でしのげるかどうかで、最初の数日の過ごしやすさがかなり変わります。

がまんしないほうがよい理由
鎮痛剤は「痛くなってから飲むもの」と考えている方が多いのですが、この場面では少し事情が違います。
日本ヘルニア学会の診療ガイドラインは、手術のあと長く残る痛みの危険因子として、女性、50歳以下の若年者、再発ヘルニア、術後早期の痛み、手術前からの痛みの5つを挙げています(『鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024[第2版]』CQ17-1)。
5つのうち、こちらの手で動かせるものは術後早期の痛みだけです。だから処方された鎮痛剤は、我慢比べをせずに使っていただきたい。痛みを抑えることが、そのまま先々の備えになります。

長く残る痛みについて
手術のあと長く残る痛みは、炎症によるものと神経に由来するものに分かれます。同じガイドラインによると、発生率の報告は幅が非常に広く、痛みの測り方がそろっていないためだと説明されています。ひとつの数字で語れる話ではない、ということ。
体を動かすときの違和感は、術後1週間ごろになれば、痛みのほうはだいぶ落ち着いてきます。それでも続くようでしたら、早めに受診してください。

専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、「痛み止めはなるべく飲まないようにしています」とおっしゃる方がいらっしゃいます。体に優しくしているおつもりなのだと思います。ただ、この時期に限っては逆で、痛みを抑えておくほうが先々のためになります。残った薬は捨てていただいて構いませんので、痛いときは遠慮なく使ってください。
3. 手術当日から1週間までの過ごし方
手術当日
帰宅後の食事に制限はありませんし、シャワーも浴びていただけます。ただし、湯船につかるのと、お酒の2つだけは、この日のうちは控えていただきます。
術後1日目
デスクワークと車の運転が、このあたりからできるようになります。ふだんの動作について、こちらから細かく制限を設けることはしていません。重い物を持つ、強くいきむ、腹筋運動をする。この3つだけは控えめにしてください。
排便でまったくいきまずに済ませるのは難しいので、そこは無理のない範囲で。内服薬は朝から再開できます。抗凝固薬を飲まれている方も、同じように再開していただけます。
術後2〜3日目
湯船につかるのと、お酒が解禁になるのはこのころです。活動の範囲のほうは、体の回復を見ながら少しずつ広げていってください。
術後1週間
体を動かすときの違和感は残るものの、痛みのほうはだいぶ軽くなってくるころです。散歩や軽いジョギング、短時間の水泳から運動を再開していただけます。筋力トレーニングはもう少し先になりますが、性生活はこの時期から再開していただけます。
術後10日目を過ぎれば筋力トレーニング、2週間を過ぎれば腹筋運動やゴルフも徐々に。メッシュがしっかり固定されてくるのが、ちょうどこのあたりの時期です。初めて手術を受けられる方向けの流れは初めて受診される方へにまとめてあります。
4. 仕事にいつ戻れるか
デスクワークであれば、痛み止めを上手に使っていただくことを前提に、術後1日目から戻れます。
立ち仕事や肉体労働は、ひとくちには言えません。同じ「立ち仕事」でも、レジの前に立つのと、荷物を抱えて階段を上るのとでは体にかかる負担が違います。重い物を持ち上げる作業が入る仕事ほど、戻る時期は後ろになります。診察のときに、ふだんどんな動きをされているかを教えてください。それに合わせてお伝えします。

ちなみに日本ヘルニア学会の診療ガイドラインでは、鼠径部切開メッシュ法と腹腔鏡手術を比べたとき、職場復帰または日常生活復帰までの期間は腹腔鏡手術のほうが有意に短かったとされています(CQ7-1)。同じCQは、血管損傷や精巣痛、手術時間の点では鼠径部切開メッシュ法が優れているとして、双方を条件付きで推奨しています。どちらが上ということではありません。
5. お腹の張り・傷・違和感 ― よくある変化
腹腔鏡の手術では二酸化炭素のガスでお腹をふくらませるので、術後に張りを感じる方がいらっしゃいます。たいていは数日のうちに自然と吸収されていきます。
軽い腫れや違和感も、体が傷を治していく過程で起きる反応。時間の経過とともに変わっていきます。尿が出にくいと感じたときのことは手術のあとの尿の出にくさで説明しています。
術後2週間ごろまでに、手術した場所にリンパ液がたまることがあります。漿液腫といって、多くはそのまま消えていくもの。出血による血腫も、24時間から48時間以内に起きることがほとんどで、たいていは吸収されます。
| 合併症 | 発生頻度 | 特徴・対処法 |
|---|---|---|
| 漿液腫 | 4.4% | 手術部位にリンパ液が貯留。術後2週間までに発症し、多くは自然消失 |
| 腸閉塞 | 0.14% | 腹膜縫合部への腸管癒着が原因 |
| 出血 | 0.14% | 稀だが適切な止血処置で対応 |
| 神経損傷 | 0.06% | 極めて稀 |
| 腸管損傷 | 0.06% | 極めて稀 |
| メッシュ感染 | 0.04% | 極めて稀 |
日本内視鏡外科学会の全国調査による、腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術の集計です。それぞれの合併症について詳しくは鼠径ヘルニア手術後の合併症をご覧ください。
6. すぐにご連絡いただきたい症状
ここまでは、待っていれば落ち着くものの話でした。
次に挙げるものは違います。
- 傷が赤く腫れている、膿が出ている(感染を疑うサイン)
- 38℃以上の熱が続く
- 強い痛みが引かない
- 手術した場所にはっきりした膨らみが出てきた

メッシュのような人工物に細菌が付くと、抗菌薬だけでは治まらず、メッシュを取り出さなければならないことがあります。傷の様子がおかしいと感じたら、早いほうがいい。判断に迷ったときこそ、ご連絡ください。
関連記事:鼠径ヘルニアを放置すると危険?嵌頓のリスクと治療法を専門医が解説
7. 再発を減らすためにできること
手術のあとの経過が順調でも、気をつけておきたいことがいくつかあります。適度な運動を続ける。便秘を防ぐ食生活にする。重い物の持ち上げ方といきみ方に気をつける。そして定期的に経過を見せていただく。
とはいえ、ずっと気にしていなければならない、ということはないと思っています。元来楽しめていたものが楽しめないのでは、手術をした意味がありません。日常を充実させることのほうが、ずっと大切だと思っています。
反対側に新しくヘルニアが出てくることもあります。鼠径ヘルニアの初期症状を覚えておいていただければ、次に出てきたときも早く気づけます。手術した側にまた出てきた場合の考え方は鼠径ヘルニアの再発にまとめました。

専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、「もう重い物は一生持てないのでしょうか」と聞かれることがあります。そんなことはありません。メッシュの固定が進めば、以前と同じように動いていただけます。手術を受けた意味は、元の生活に戻るところにあります。
よくある質問
この時期に限っては、痛くなる前から使っていただくほうがよいと考えています。日本ヘルニア学会の診療ガイドラインは、手術のあと長く残る痛みの危険因子のひとつに術後早期の痛みを挙げています。痛みのピークは手術当日の夜から翌日にかけてですので、そこは我慢比べをせず、処方された鎮痛剤を使ってください。
シャワーは手術当日から浴びていただけますが、湯船につかるのと飲酒は術後3日目からです。手術当日は、シャワーだけにとどめてお酒も控えてください。
デスクワークなら術後1日目から戻れます。立ち仕事や肉体労働は仕事の内容によって変わり、重い物を持ち上げる作業が入るほど時期は後ろになります。ふだんどんな動きをされているかを診察のときに教えていただければ、それに合わせてお伝えします。
軽い腫れや違和感は、治っていく過程で起きる反応であることが多く、時間とともに変わっていきます。ただし、傷が赤く腫れている、膿が出ている、38℃以上の熱が続く、強い痛みが引かない、はっきりした膨らみが出てきた。このいずれかがあるときは、早めにご連絡ください。
腹腔鏡の手術では二酸化炭素のガスでお腹をふくらませるため、術後に張りを感じる方がいらっしゃいます。たいていは数日のうちに自然に吸収されます。
まとめ
- シャワーと食事は手術当日から。デスクワークと運転は術後1日目から
- 入浴と飲酒は術後3日目から。軽い運動と性生活は術後1週間から
- 痛みのピークは手術当日の夜から翌日。鎮痛剤は我慢比べをせずに使う
- 術後早期の痛みは、長く残る痛みの危険因子のひとつに挙げられている
- 立ち仕事と肉体労働の時期は、仕事の内容で変わる。診察のときに相談する
- 傷の発赤・膿・38℃以上の発熱・引かない強い痛み・はっきりした膨らみは、すぐ連絡
帰宅してからの数日は、どこまで動いていいのか手探りになりがちだと思います。迷ったときに開いていただける早見表として、この記事をブックマークしておいていただければと思います。土日も診療していますので、平日に来られない方もご相談ください。病気そのものについては、鼠径ヘルニア(脱腸)の症状から治療までをご覧ください。