外鼠径ヘルニアとは?初期症状と、左右どちらに出やすいかを専門医が解説
お風呂で足の付け根に何か出ていると気づく。ズボンのゴムが当たるところが、前より膨らんでいる。鼠径ヘルニア(脱腸)のうち内鼠径輪という穴を通って鼠径管へ入り込むタイプを、外鼠径ヘルニアと呼びます。
立つと出てきて、横になると引っ込む。初期はそれだけのことが多いです。
名前には「外」と付いているのに、そこから出てくる穴のほうには「内」が付いている。ここが最初のつまずきどころ。ただ、鏡で見ただけで外か内かを言い当てるのは外来で診ている側でも難しく、最後は手術の場で確かめることになります。

この記事で分かること
- 最初に気づく症状。痛みから始まらないことが多い理由
- 放っておくと、ふくらみがどう変わっていくか
- 「左外鼠径ヘルニア」「右外鼠径ヘルニア」と言われたときの読み方
- ヘルニアではないのに似て見えるものと、その見分け
- なぜ自分に起きたのか。学会が挙げている背景
- 手術。TAPP法とTEP法の違いと、当院での受け方
目次
1. 気づくのは、たいてい見た目から
痛みから始まる方は、多くありません。
最初に気づかれるのはほとんどが見た目のほうで、お風呂上がりに鏡を見て、あるいは下着のゴムが当たって、そこで初めて分かったとおっしゃる方が大半です。押すと引っ込む。横になると消える。診察でこの2つがそろっていれば、ほかの病気を先に疑うことはあまりなく、その場で見立てがつくことがほとんどです。
男性では、ふくらみが足の付け根よりさらに下まで届いて、陰嚢そのものが大きく見えるところまでいく方がいらっしゃいます。内鼠径輪から入った先の鼠径管が、もともと下向きに開いているからです。この段階まで来ると、見た目の変化はご本人がいちばん先に気づかれます。
ほかにどんな出かたがあるのかは症状のセルフチェックに5項目で、鼠径部そのものの見え方は足の付け根の見た目の変化にまとめてあります。

専門医のワンポイント
外来でご相談を受けるなかで、「朝は無いのに夕方になると出てくる」とおっしゃる方がとても多いです。これは気のせいではありません。立っている時間が長いほど腹圧がかかり、出やすくなります。診察が午前だと、ちょうど引っ込んでいる時間帯に当たってしまうこともあります。出ているときの写真をスマートフォンで撮ってきていただけると、こちらも判断しやすくなります。
2. ふくらみは、こう変わっていく
そのまま置いておくと、出ている時間が少しずつ長くなっていきます。

| 時期 | ふくらみ | 感じ方 |
|---|---|---|
| 初期 | 立つ・力むと出る。横になると消える | 違和感だけ。痛みは無いことが多い |
| 進んだころ | 出ている時間が長くなる | 重だるさ、引っぱられる感じ |
| さらに進むと | 押しても戻りにくくなる | 立ち仕事や夕方につらい |
| 戻らない | 硬くなり、押しても戻らない | 強い痛み・吐き気。すぐ受診 |
いちばん下の行だけは、性質が違います。飛び出したものがはまり込んで戻らなくなった状態で、時間をおかずに受診していただく必要があります。はまり込んだ先で何が起きていて、なぜ時間との勝負になるのかは押しても戻らなくなったときにまとめました。
上の3行のあいだは、明日どうこうという話ではありません。急ぎではないけれど、待っていて自然に閉じることもない。ここが判断の難しいところで、外来でも時間をかけてご相談することになります。
3. 「左外鼠径ヘルニア」「右外鼠径ヘルニア」と言われたら
診断名の頭に左右が付くことがあります。
左外鼠径ヘルニアなら左側、右外鼠径ヘルニアなら右側に出ている、というだけの意味で、どちら側かを頭に付けて呼んでいるにすぎません。病気の種類が違うわけではありません。左右のどちらに出ていても、手術で何をするかという考え方は変わりません。

片方だけに出る方が多いものの、左右そろって出る方も一定数いらっしゃいます。片側で見つかったときに反対側はどうなっているのか、というご質問も外来でしばしばいただきます。
反対側について、いまわかっていること
- 自覚症状も診察所見も無いのに、手術のときに反対側で見つかるヘルニアがあります。オカルトヘルニアと呼ばれます
- 腹腔鏡で入ると反対側も同じ視野で確かめられるため、見つかること自体は珍しくありません
- ただし、見つかったものを全部その場で直すべきかについては、学会のガイドラインでも意見が分かれています。症状の無いヘルニアを直すことで、かえって術後の痛みが出る可能性が指摘されているためです
- 当院では、あらかじめご説明したうえで方針を決めています。手術中に無断で範囲を広げることはしません
関連記事:鼠径ヘルニア(脱腸)の原因は?男性に多い理由を専門医が解説
4. 似ているけれど、違うもの
ふくらんでいるからといって、ヘルニアとは限りません。
足の付け根は、もともといろいろなものが集まっている場所です。太い血管が通り、リンパ節がいくつも並び、男性ではそこを精索が下りていく。ふくらんで見える原因は、そのどれからでも起こりえます。
男性で紛らわしいのは陰嚢水腫と精索水腫です。どちらも膜のあいだに液体がたまってふくらんだもので、押しても引っ込みません。外鼠径ヘルニアは鼠径部から続いていて、押せば戻る。女性では、同じ場所にヌック管水腫ができて似た見え方をすることがあります。

しこりとして触れるものも、いくつかあります。リンパ節が腫れているとき、皮膚の下に袋ができているとき、あるいは脂肪のかたまりのとき。痛みの有無まで含めた見分けは足の付け根のしこりとヘルニア以外の病気との見分けで、それぞれ扱っています。どこにかかればよいか迷ったら、何科にかかればよいかを先に読んでいただくと早いかもしれません。
迷うときに何をするかというと、超音波です。学会のガイドラインは、ふくらみがはっきりしない場合の第一選択として、立ったまま、あるいはおなかに力を入れながら行う超音波検査を挙げています(CQ3-1)。中身が液体なのか腸なのか、モニターを見ればその場で判断がつきます。
逆に、押せば戻るふくらみがはっきりしているなら、検査を並べる必要はありません。どの検査をどこまで行うかは受診の前に外か内かを見分けられるのかで、ガイドラインの記載ごと整理しました。

「CTを撮ったけれど何も無いと言われた」という方が、実際に出ている状態で来られて診断がつくことがあります。撮る姿勢の問題であって、どちらかが間違っていたわけではありません。
5. なぜ自分に起きたのか
思い当たることが何も無いのですが、とおっしゃる方がほとんどです。
おなかの中と陰嚢のあいだには、赤ちゃんのころに精巣が下りてくるための通り道があります。鞘状突起というもので、ふつうは生まれる前後のうちに自然に閉じてしまいます。これが閉じきらずに残ることがあって、学会のガイドラインには、大人になっても開いたままの人は閉じている人に比べて外鼠径ヘルニアを起こしやすいという報告が載っています。生まれたときからあった構造が、何十年も経ってから初めて表に出てくる。そういう成り立ちの病気です。

もうひとつ、体の使い方の話があります。仕事で機械的な作業をすることは外鼠径ヘルニアに関わるけれども、内鼠径ヘルニアには関わらないという報告が、同じガイドラインに紹介されています。同じ鼠径ヘルニアでも、なりやすさの背景がタイプごとに違うということ。
体重については、読んでいて少しややこしく感じる書かれ方をしています。太っている人のほうがなりにくいという報告が多い一方で、逆の報告もある。体型だけで決めつけられるものではありません。
原因が分かったところで、残念ながら生活の工夫で閉じることはありません。自然に治るのか、自分で治せるのかという問いには別のページで正面から答えています。女性の場合に背景がどう変わるかは女性の鼠径ヘルニアの原因と症状のほうにまとめました。
6. 内鼠径ヘルニアとの違いは、血管のどちら側か
分ける基準そのものは、思ったよりはっきりしています。
鼠径部を縦に走っている下腹壁動静脈という血管が、そのまま境目の役割をしています。この血管の外側を通ってきたものが外鼠径ヘルニア。反対に内側から押し出されてきたものが内鼠径ヘルニアで、日本ヘルニア学会の分類はここ一点で線を引いています。記号ではL型とM型。
もっとも、この線引きが確定するのは手術で中を見たとき。分類そのものが術中の所見で決めるものなので、診察の段階では「鼠径ヘルニアがある」ところまでで止めておくのが正直なところです。内側のタイプについては内鼠径ヘルニアとの違いと、なりやすい人のほうで、分類の読み方から危険因子まで詳しく扱っています。
なお、鼠径靱帯をはさんで下側に出てくるものは大腿ヘルニアという別の病気にあたり、記号ではF型になります。
7. 手術。TAPP法とTEP法はどう違うのか
残念ながら、外鼠径ヘルニアは自然には治りません。
いちど開いた穴が自分の力でふさがることはなく、いまのところ根治する方法は手術しかありません。おなかに力をかけない生活を心がけても、進み方をいくらかゆるめられるかどうかというところまでで、治すところまではいきません。
方法は大きく2つ。足の付け根を切って直す方法と、おなかに小さな穴を開けて腹腔鏡で直す方法です。腹腔鏡のほうは、さらに2つ。おなかの中を通るのがTAPP法で、通らずに腹膜の外側だけで進めるのがTEP法です。

| TAPP法 | TEP法 | |
|---|---|---|
| おなかの中を通るか | 通る | 通らない |
| 反対側を確かめられるか | 同じ視野で確かめられる | 確かめにくい |
| おなかの手術歴があるとき | 癒着の程度によっては難しい | 影響を受けにくいことがある |
| 当院 | TAPP法 | ─ |
当院はTAPP法です。理由は視野で、おなかの内側にいちど入ってしまえば、鼠径部の弱いところがまとめて一望できます。外側なのか内側なのか、反対側に隠れていないか、鼠径靱帯の下はどうか。診察室では保留にするしかなかったことを、その場で片づけられる。
ただし、どちらの方法が優れているという話ではありません。学会のガイドラインは、初めての片側の男性については腹腔鏡に習熟した外科医が行う場合に腹腔鏡を推奨すると書いたうえで、全身麻酔が難しい方、以前の手術で強い癒着がある方には足の付け根を切る方法を推奨しています。得意な面は分かれています。腹腔鏡が有利なのは、傷の感染の少なさ、術後の痛み、長引く痛み、仕事に戻るまでの早さ。切開法が有利なのは、血管を傷つける割合、精巣の痛み、途中で方法を変えずに済む確率、そして手術時間です。
結局のところ、体の状態と執刀する側の慣れ。決まるのはこの2つです。どう選ぶかは手術方法の選び方に、腹腔鏡で何をしているのかは腹腔鏡手術の流れに、それぞれ分けて書きました。
当院での手術は、全身麻酔の日帰りです。保険が使えますので、自己負担がいくらになるかは高額療養費の計算とあわせてご覧ください。朝の集合から帰宅までの過ごし方は当日の流れと持ち物に、退院後にいつ何を再開できるかは術後の痛みと回復の早見表にあります。そもそもなぜ入院せずに済むのかは、別ページで理由を書きました。
どなたでも日帰りにできる、という話ではありません。重い持病がある方について、日帰りを一律に勧めるだけの根拠はまだ無いというのがガイドラインの立場です。当院も術前の検査を見て、入院できる病院をお勧めすることがあります。
よくある質問
力を入れたときや立っているときに足の付け根がぷくっと出て、寝転ぶと引っ込む。初期はこの形がいちばん多いです。痛みは無いことのほうが多く、違和感や重だるさから気づかれます。押しても戻らなくなったり、硬くなって強い痛みや吐き気が出たときは、時間をおかずに受診してください。
変わりません。左右はどちら側に出ているかを示しているだけで、病気の種類は同じです。片側で見つかった方でも、反対側に症状の無いヘルニアが隠れていることがあります。見つかったものをその場で全部直すかどうかは意見が分かれているため、当院ではあらかじめご説明したうえで方針を決めています。
ヘルニアそのものが射精に影響するという記載は、日本ヘルニア学会の鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024にはありません。手術のほうについては、精管の損傷、精巣の痛み、性機能の障害が評価項目として挙げられていますが、術式によって差があるという結論は出ていません。気になる症状があれば診察でお伝えください。
外鼠径ヘルニアは鼠径管を通って陰嚢まで下りてくることがあるので、その可能性はあります。ただ、陰嚢水腫や精索水腫でも同じように見えます。見分けの目安は押したときで、ヘルニアは押せば戻り、水腫は押しても引っ込みません。迷うときは立ったまま行う超音波検査で、中身が液体なのか腸なのかを確かめます。
なります。男性に多い病気ですが、女性にも起こります。女性の場合はヌック管水腫というふくらみと紛らわしいことがあり、押しても引っ込まないときはそちらを疑います。また、鼠径靱帯より下に出る大腿ヘルニアは女性に多いとされています。見分けがつきにくいときは、立ったまま行う超音波検査で確かめます。
そうとは限りません。手術のときに反対側を見ると、自覚症状の無いヘルニアが見つかることがあります。オカルトヘルニアと呼ばれるものです。腹腔鏡だと同じ視野で確かめられるので気づきやすいのですが、見つけたものをその場で全部直すかどうかは学会でも意見が分かれています。当院では、あらかじめご説明したうえで決めています。
小児の鼠径ヘルニアはそのほとんどが外鼠径ヘルニアで、大人になってから出てきたものが同じ場所とは限りません。内側から出る内鼠径ヘルニアであることもあります。以前の手術の方法によって、今回どう進めるかも変わってきます。手術を受けた時期と病院名が分かれば、診察のときに教えてください。
まとめ

立つと出て、横になると消える。最初はそれだけ。痛みから始まる方は多くありません。
そのまま置いておくと出ている時間が長くなり、やがて押しても戻りにくくなります。硬くなって押しても戻らなくなったときが、待ってはいけないときになります。
「左」「右」が頭に付いていても、出ている側を指しているだけ。手術の考え方は変わりません。ふくらんで見えても陰嚢水腫やヌック管水腫のことがあり、押して戻るかどうかが、ひとつの目安になります。
治す方法は手術だけで、開いた穴が自然にふさがってくれることはありません。どの術式が優れているかについては、ガイドラインも一方に決めていません。当院が腹腔鏡(TAPP法)を使っているのは、鼠径部を内側から確かめながら進められるためです。
足の付け根のふくらみ全般については鼠径ヘルニア(脱腸)の症状から治療までをご覧ください。土日も診療していますので、平日に来られない方もご相談いただけます。